そいつは、血だまりに咲く花だった。
荒れ果て、土も枯れて草木一本まともに育たない地区、更木。
強い殺気と霊力に惹かれて行ったその場所には、美しい少女と炎があった。
炎は少女の足元の死体から咲いていた。
まるで、花のように。すべてを吸い尽くして、無へと還す。
炎は例外なく俺も喰らおうとしていた。
俺は初めて、美しいという言葉の意を知ることとなる。
その炎と、それを扱う少女によって。畏怖の念はない。
ただその荒々しくも洗練された霊力に絶対的な力をみた。
・・・それを知る者は、尸魂界にもきっと片手ほどしかいないだろう。
手折れば咲くだろうか
そんな出会いが嘘のように、少女はすくすくと総隊長のもとで育ち
十一番隊に所属。というか剣八のもとへとやってきた。
犬のように懐き、俺もそれを許していた。
あのときの少女は泣きながら
「生まれて初めて華を恐れなかった。・・・生きてる」
と喜んでいた。その言葉の意味を知っている者は少ない。
腰にある斬魄刀は抜かれることはない。
一緒に帯刀している脇差を抜くことはあっても、は血を恐れている。
彼女からすべてを奪う血を。
・・・いや、正しくは血によって咲く華を。
躰に巻かれたさらしと両耳に二つずつついたピアスは、剣八の眼帯と同じだ。
だからこそ本当はそんなものはぎ取って、俺と戦わせたい。
けれど頑なに拒み、叫ぶ。
数年前の事件にも何かあったらしい。俺の知らない何かが。
そしてはさらに斬魄刀を手にかけない。あれほど美しい華は咲かない。
俺と戦わないのならば抜くなと命令したら、本当に抜かなくなったのだ。
愚かだ。
何を恐れる必要があるのだろうか。
成長した華を無理やりにでも咲かせてやりたい。
それを手折ったとき、俺は至上の愉しみに触れられるだろうか。
「剣八さん!剣八さん!けーんぱーちさーん!!」
「・・・一回呼べば聞こえるっつの莫迦」
「あ、ひどーい。せっかく仕事貰ってきたのに」
「どこだ」
「三番隊から虚退治をうば・・・貰ってきました!
数も多いし割と強いからどうぞって」
「そりゃあ・・・」
「いい遊び相手でしょ?」
「たまにゃあいいことするじゃねぇか」
「あ、もちろん市丸隊長じゃなくてイヅルの方ですよ」
「だろうな」
よし、とを抱えて剣八は跳躍した。
当然やちるも背中に乗っている。そのまま現地へと向かう。
ちょっとちょっと!と叫ぶの声などまるで耳にない。
「私も行くことが条件なんて・・・」
「抜くか?」
「まさか」
「・・・チッ」
「え、今舌打ちしました!?ひどい!」
「つまんね。一角にでもやらせっか」
「・・・嘘つき」
目が輝いている。嬉しそうなんてこと、躍る霊力でわかる。
「わかってんじゃねーか」
きゃはは、というやちるの声と共に抜刀した剣八は
心底愉しそうに口の端をあげた。
巨大で数の多い虚。なかなかに強いが遊び相手にしかならない。
は邪魔をしないように高いところから剣八の戦いぶりをみていた。
見惚れていた。うーん、本当に愉しそうに戦うなぁ。
かっこいい・・・!
他の隊士を連れてこなくてよかった。
これじゃあ邪魔になるだけだ。それに、剣八さんの霊力でやられる。
ふふ、と思わずは笑みがこぼれた。
疼く刀を気づかぬふりをし、久々に触れる戦場の空気に身を委ねた。
「!てめぇの体くらいは守れよ」
「はぁーい!」
一体くらいのところへわざと襲わせてもいいと、一瞬思った。
だがそれはすぐに却下される。
あんな奴らには、勿体ねぇ。
早くあいつの力がみたい。もう一度華がみたい。
だがその相手が俺以外なんてことは絶対許さねぇ。
だからそれまでは俺が代わりに斬っといてやるから
さっさと乗り越えて、また華を咲かせてくれ。