夢をみた。
あの日の夢。仲間を一瞬で失った、現実。
いくら楽しいときが過ぎても、薄れることのない苦しみ。
忘れちゃいけないんだ。
だって私は、存在するだけで刀になれるのだから。
手折らずとも咲く
がばりと布団から起き上がって、自分が大量の汗をかいていることに
気づいた。額からゆるく冷たいものが落ちて、は手のひらで拭った。
もう戦ってはいけない、そういう啓示なのだろう。
先日剣八さんと行った虚退治で戦場の空気に触れてしまったから。
そりゃあ神もあわてるよね。私、死神だけど。
・・・神っているのかな?まぁいいや。
わかることは、私に刀を抜く権利はないということだ。
「おはよーございまーす」
「遅かったの」
「おはよう、山じぃ。変な夢みちゃってね」
ごつん、と殴られる。
「山本総隊長」
「・・・うぅ、いいじゃんか今更ぁ」
私は幼い時に山本総隊長に拾われた。
流魂街を彷徨っていたところだった。私が通った場所すべて、血の炎に包まれていた。
圧倒的な力を持つ総隊長の美しい炎と違って、美しいけど恐ろしい私の炎。
近づけば殺してしまう。だから私はいつも独りだった。
真央霊術院に入学なんてしたら、すぐにわかるほど異質な霊力。
もはや大虚の方がマシだと思えた。・・・だって、すぐに消えるもの。
拾われたときに、すでに霊力の高さは総隊長と並んでいた。
部屋ですべてを学び、私はようやく刀を収める術を得た。
初めて人・・・総隊長にもらったものは、霊力を喰らい続けるピアス。
でもそれは霊圧に耐え切れず壊れてしまうので、定期的に贈られる。
そんなものでも嬉しかった。さらしや指輪など霊圧は様々な物に
喰われ続け、ようやく私は一般的な霊圧を手に入れた。
そしてようやく、私は人と接することができるようになった。
炎に過保護され、己のなかった私はようやく人格というものを持てた。
私を迫害した両親は生まれてすぐに華に喰われたから、仕方ないのかもしれない。
拾われても皆喰われてしまっていた。
私を傷つけない人、傷つけても死なない人。華に喰われない人を、ずっと欲していた。
「あ、山じぃ。そろそろピアス強いのほしい」
「・・・わかったわかった。今度は根付にして斬魄刀にでもつけるか?」
「壊しそうで怖いなぁ」
「じゃあやはり櫛か簪かのぅ・・・小間物はあまりなぁ・・・」
「髪結わないから駄目だよ。あとさらし窮屈だよー」
「そろそろ年頃だしな・・・ピアス増やすか」
「? また可愛いのお願いします」
基本的に山じぃは私に甘い。
だけれどそれは私が懐いた今だからこそだ。
可哀想な娘として拾ってきたというよりも、脅威として確保したのだろう。
そして、戦力として。
それがわからなかった私は、ある日総隊長と小さな口論をした。
そして癇癪を起こしたために何十人もの被害を出した。
総隊長も深手を負った。彼の血を喰らって咲き誇る美しい華に
私は絶望して逃げ出した。
華が咲いている間、基本私には躰の操縦権はない。
『相思華』。それが私の斬魄刀の名。
華は葉を思い、葉は花を思う。葉は私で、華が刀だ。
華は私を思って、私のどんな傷も許さない。
逃げ出した先は流魂街の郊外だった。
確かここは更木だっただろうか。草木一本、土も枯れた荒れた土地。
治安の悪いところだから、すぐに人が襲ってくる。
だから、華が私を囲って咲く。私を守る。
誰も近寄らない。近寄れない。生きている者はすべて。
相手の体内外構わず炎は華のように燃え、私は華の中で無傷でいる。
ぬくもりなど感じたこともない。
華が咲くとどんどん意識は薄れ、やがてとぶ。
ふと、華が反応を示す。
「・・・なんだ、餓鬼じゃねーか」
そこで私は、更木剣八に出会った。
彼は強い者を求めていた。
私もそれに含まれていたようで、斬ろうとする刀は迷わず私の体を狙った。
恐れもない、壊さない。彼は華が咲いても壊れなかった。
彼にも咲くことは悲しかったけれど、彼は私の力を褒めて
次の約束さえ取り付けた。
すぐに総隊長の部下が来て連れて帰られた私に名を問うて。
「か。忘れねぇ。・・・また殺り合おうぜ」
その笑みに、私は一瞬で虜になった。
・・・のは山じぃには内緒だけど。
彼のためならば、もう一度華を咲かせてもいいかもしれない。