天候、曇り。今年最大の寒波が日本列島を覆っていた。
雪が降りそうな、寒くて薄暗い日。雲は変なかたちをしている。
ここ一週間以上、そんな日が続いていた。
「雪、降りそう」
ん?とすぐ隣で声がする。
「雪降ったらカズさん帰れなくなりますよー」
私は嬉しいけど、という言葉を飲み込んでは笑う。
外は相当寒いのだろう、窓が少し曇っている。
ソファに一と二人、身体を寄せ合ってほぼ寝転がるようにして座っている。
膝にかけたブランケットのやわらかさが心地いい。
ぬくぬくと、互いの体温で暖をとっているからか、それとも
久しぶりの温もりだからだろうか、とてもあたたかい。
「カズさん、聞いてます?」
「・・・ん」
「眠いんですか」
「・・・そげんことなか」
そういっているが、一の声はいつもより小さく、明らかに眠気を孕んでいた。
思わずくすくすと笑みが漏れる。
「寝てもいいですよ」
「久しぶりに会うっちゅうんに、そげな勿体なかこつできん」
「・・・・・・っ」
嬉しくて、いっきに頬が朱に染まる。
頷くようにしては顔を俯けた。・・・カズさんの、バカ。
実際会うのは1ヶ月ぶりだった。学生であるとプロになった一では
生活のリズムが違う。以前より遠距離ではなくなったとはいえ、それでも
頻繁にあえるものでもなかった。
だからだろうか、今日はとてもあたたかい。
いつも自分が生活している部屋なのに、まるで違う空間にいるようだ。
すぐそばに彼の香りがあって、そわそわする。
普段どれだけ欲しても届かない彼のぬくもりは、それだけでの心を満たす。
突然オフになったからって家に来たときはびっくりしたけれど
それさえ吹き飛ばしてしまうのだから、本当に私は彼が好きなのだと実感する。
「・・・って、結局寝てるし」
気づいたら、耳元から規則的な寝息がする。
肩にもたれかかって、どうやら寝ているようだ。
首を少し動かしたら触れてしまう距離にある、端整な顔にどきどきした。
・・・犯罪級に可愛い。
「疲れてるのかなぁ、やっぱ」
せっかくのオフなのに、私のところに来ていたのでは休みにならないのでは
ないだろうか。もうすぐシーズンが終わるとはいえ、これから代表戦もあるし
今が一番大事な時期だ。
寒さが続いているし、体調悪化が一番困るだろうに。
来てくれるのはすごく嬉しいし、いつも淋しい思いをしていないといえば嘘だけれど
少ない休みの日にはゆっくり休んで、備えてほしいのに。
なにより、無理だけはしてほしくない。
重荷になりたくないし、彼の活躍を何よりも楽しみにしている。
そして、彼が私を欲してくれるためならば、私のすべてを捧げてもいい。
だけれど彼は一人で頑張ってしまうから。
私が気づかないだけで彼の負担になっているのではと不安になることがある。
すべてを背負って、でもそんなのなんでもないという顔で彼はいるから。
私にも、ちょっぴりわけてくれればいいのにな。
「もっと我儘言ってくださいよ、カズさん」
こうして会いに来てくれるのは私が望むからだ。
何かあったとき電話をしてくれるのも、私が聞きたがっているからだ。
彼は、私に無理を言わない。
「・・・そいやい、遠慮せん」
ちゅ。
もたれかかったまま、首だけを動かして口付けられる。
久しぶりの、薄い唇の感触。
唇を食むように、求められる。心臓が壊れそうに鼓動を打った。
「・・・・・っ」
「今夜、泊まるけんな」
ふい、とまた首を動かして、一はそっぽを向いて寝に入る。
・・・・・・え、ちょっと、寝ぼけてたとかじゃ、ないよね?
混乱する頭といつまでも静まらない心臓にあわあわしながら、
は今夜はカズさんの好きなものを沢山つくろうかなと
冷蔵庫の中身を思い出していた。