夜も更けた。
   泊まるけん、と彼は軽く言ったけれど、その意味を
   はたして私はどう取っていいのやら。
   一が再び目を覚ますと、なんだかそわそわしてしまう。



   「・・・雪、ほんとに降りましたよ。しかもすごい量」

   「やけん、泊まるいったとよ」

   「です、よね」

   「・・・・・・・・・・・・・・」



   そっ、か。私と一緒にいたいから、ではないんだ・・・。
   ずき、と心臓が痛むのを、は気づかないふりをする。
   もちろん顔にも出さないよう、つとめる。
   そんなをみて、一はふっと笑う。



   「そげな顔するな、冗談ばい」
 
   「っ、ひどい」

   

   ちょっと腹が立って、は一を軽く叩く。
   何度も、何度も。
   さすがに痛いらしく、彼の両手でのそれは止められた。
    
   手首に回る彼の手は大きく、硬い。
   あぁ、この手でいつもゴールを守っているのか。
   そう思って感慨に耽りたいが、簡単に止められるのもむかつくので
   ぐぐ、とそのまま力を込めて彼への攻撃を再開しようとする。
   


   「ぐっ・・・カズさん、ちから、強い・・・っ」

   「当たり前やけん」

   「まけるもん、かっ」

   「よか度胸ばってん、百年早いんじゃ」

   

   手首を掴んだまま、一は余裕たっぷり、といった感じで笑う。
   ますます悔しくて(かっこいいけど、そりゃあもう)は更に力を込めるが
   その手はどんどん押し返される。

   ・・・あ、そうか。
   押してだめなら引いてみる!と一瞬力を抜いて、均衡が崩れたところを
   また攻撃すればいいんだと気づき、実行する。


   が。






   「ひゃあっ」





   よく考えれば、は全力で押していたのだから相当強く力を込めていたわけで。  
   均衡が崩れてまたすぐ力を、なんてやる前に一の力に耐え切れなくて
   そのまま後ろへ押し倒される。

   


   「うぉっ」



   どす、と勢いよく倒れた。
   一も予想外だったらしく、手首を掴んだままの上に乗っかっている。
   
   二人っきりの静かな部屋。
   久しぶりに会う、恋人。

   そしてこの、体勢。

  
   
   
   「・・・・・・・・っ」

   「か、カズさ、ん・・・」


  
   どうやら辿り付いた想像は同じだったらしく、二人同時に赤くなる。
   もちろんの方が、一の倍は真っ赤だ。  

   心臓がうるさい。全身が熱い。
   互いの息がかかる距離で、混乱する。
   
   こ、これは、する、の、かな・・・?
   どかないってことはそうなのかな、でも・・・っ。
   どうしたらいいかわからず、は一の目をちら、と見る。
   
  

   「あ、の、カズさん・・・?」   

     

   ぐ、と彼が息を飲むのがわかった。
   次の瞬間に、彼の瞳の奥に先ほどまでと違う色がみえた。



   
   「・・・だ、大丈夫です、よ?カズさん、なら」

   


   カズさんの欲望ぜんぶ、欲しいんです。 

     
   がそう告げると同時、唇が降ってくる。      
   手首に込められる力は増し、口付けは乱暴になる。
   強引に割り込んできた舌が口内を荒し、苦しい。
   全身の力が抜けていく。瞳さえわずかにしか開けない。
   感覚だけの生き物になったように、一の熱だけに敏感になる。

   

   「んっ・・・ふぅっ、んぁっ」
      
   

   思わず声が漏れて、羞恥を誘った。
   口付けはそのまま頬を通って首筋へと移っていく。
   熱い舌が、ゆっくりとの肌を這っていく。  
   初めての感触に、身を捩った。
  
 
   これが、彼の欲望。

   
   いつも隠してしまっている、本能。
   知らない男の人に感じた。でも触れる唇も、僅かな視界にある
   上に乗っている相手も大好きな、一だ。
   試合のときとはまた違う、真剣な瞳。少し、余裕のなくみえる表情は
   とても扇情的だった。


   でも、恐い。

 
   彼が、ではない。これから進むであろう行為が、だ。
   こんな風にを求めてくれるのは初めてだった。
   だからそれに応えたい。彼のすべてを受け止め、私のすべてを捧げたい。
   それでも、恐い。なんともいえない恐さがあった。
   本当に好きなのに、恐い。
   心の準備ができてなかったなんて、今更いえない。   
   
 


   「・・・こん、バカ」


   

   ふぅ、と息を吐くと共に、額と額がぶつけられる。
   こつん、なんて優しいのじゃなくて、もうちょっと強くて、痛い。

   




   「そげなビビちょる奴喰うほど、飢えておらん」
     

      
         
   
   くくっ、と笑いながら、一はの上から退いた。
   一気に緊張が解ける。そして途端に呼吸が楽になる自分が情けなくて
   起き上がりながら、は少し涙が出た。

   あぁ、また彼に我慢をさせてしまうのか。
   私は彼の想いに応えられてなくなってしまう・・・。


   気づくと、彼の手を掴んでいた。     
   ん?と一が驚いたようにこっちをみる。
   



   「だ、代表戦勝ったら、しま、しょう・・・っ」       

   
   
   恥ずかしくて、とてもじゃないが顔はみれない。
   うつむいたまま言うが、それでも頬が紅潮していくのがわかる。

   今月末にある日本代表戦。もちろん彼も招集されていた。
   それが終わったら、束の間の休息がある。そしてその後オールスターとか
   次のシーズンとか色々あって、また忙しくなる。
   だから。



   「・・・か、カズさん?」


   
   なんの反応もないので、はおそるおそる視線を上げる。



   「せからしか」


   
   あいている手を口元にやって、彼は少し視線を彷徨わせた。
   そして、はぁぁぁと深く息を吐いて、一はの手を握り返す。

  
 


   「・・・約束やぞ」     




   小さく言った彼の言葉に、はうん、と頷いて笑った。

   いっぱいいっぱいの私を、彼はいつだって何歩も前で
   待っていてくれるから。
   もう少しだけ、それに甘えておくことにする。