天候、曇り。今年最大の寒波が日本列島を覆っていた。
雪が降りそうな、寒くて薄暗い日。
ここ一週間以上、そんな日が続いていた。
ははぁ、とため息をついた。
「・・・普段嘘みたいに丈夫なのに、こんなときに熱出すなんて」
よりによって、貴重なオフの日に。
ベッドで横になっている一をみて、再び息を吐いた。
「せからしか」
眉間に皺を寄せた一の声は、掠れている。
プロに入って忙しくなってから、会う機会は減った。
自身も卒論に向けて研究が始まっていたし、仕方がないことだけれど。
「それよか、なしてお前がここにおる」
「よっさんから連絡来ました。色々と」
わずかに、一の目元が動く。
急にオフになったと連絡があったのが一週間前、熱が出たと連絡が来たのが
つい2時間ほど前。どちらも城光からだった。
ったく、最近連絡がないなと思ったら。
「・・・帰、」
「りませんよ、バカ!」
遠距離の彼女に連絡もしないなんて。こっちからかけても出ないし。
たまに電源切ってることだってあった。
・・・もう、ありえない。ばか。ばか。ばか!
どれだけ淋しかったか。どれだけ不安だったか。わかってるのかこの男は。
「ば、っ、ゴホゴホッ」
バカとはなんや、といおうとしたが、荒い咳で言葉にならない。
どうやら相当酷いようだ。
は息を吐いて、静かに言う。
「お粥つくってきます。キッチン借りますよ」
「・・・・・・おう」
布団をかけ直して、は部屋を出ていった。
「・・・言いたいだけ言いよってからに」
ばか、か。
本人は無自覚だろうが、あんな泣きそうな顔でいわれたら返す言葉もない。
付き合いが長いせいもあるが、敏感なに風邪をひいたということを
知られたくなかった。知ったらのことだからすっ飛んでくるだろう。
それはさせたくなかった。
それにまさかこんなひどくなるとは思っていなかったのだ。
寒さが続いていて、なんとなく頭が重いとは感じていたが、すぐ治るだろうと
放っておいたらこのザマだ。シーズンが終わって気が抜けたのだろうか。
なんとも情けない。
静かな空間にキッチンから小さく音がする。
控えめに響くそれは心地よかった。
知られたくなかったと思っていたのに、こうして看病に来たの存在を
よかったと思う自分がいる。・・・・・・絶対いわないが。
「カズさん、起きてますか?」
夢うつつでいると、が戻ってきた。
ネギを叩きつけるように切りそうな勢いであったが、音は小さかったので
どうやら怒りは収まったのだろう。
かちゃり、と粥の入った小鍋をそばのテーブルに置いて
は一を覗き込むように揺する。
その顔をみた瞬間、一はふと胸にやわらかい熱が灯るのを感じた気がした。
「・・・好いとぅばい」
思わず出た言葉は、熱のせいだろうか。
一気にの頬が朱に染まる。
「・・・・・・・っ」
「・・・その顔は反則ばい」
ぐい、との首の後ろに手をまわして、そのまま引き寄せる。
そしてそのままの唇に噛みつくように口づけた。
緩急をつけるような、いつもの口付けとは違う、ただ一方的に
すべてを貪る口づけ。
もう文句も何もいわせない、ただ自分の体温とこの快楽に浸ればいい。
そういわれているようで、はらしくない一に微笑を浮かべてそれを受け入れた。
離れていた分が、いっきに取り戻せたようで嬉しかったのはいうまでもなかった。
「お前は俺のもんたい。もう、逃がさん」
一生な、と微笑んだ一は粥を置いたテーブルを指さすと、そのまま瞼を閉じた。
そこには、小さな箱。
中は言うまでもないほど待ち焦がれていた、約束の指輪。
「・・・寝落ちしないでよ、バカ」
嬉しくて、すぐにつけたかったけれど、肝心の言葉がきけていない。
ちゃんと一の手でつけてほしくて、はそれを見なかったことにした。
明日、元気になったらしてくれるかな。
不器用な彼の、精一杯の言葉で。
11.02.10