長く続いた雨。毎朝起きるたびに、暗い空がみえた連日。
肩下まで伸びた髪は湿気を含み、少し重たい。
もともと少し外にはねる癖のある髪が、さらにはねる。
周りは綺麗にはねているその髪をかわいいと言ってくれるが
本人としてはまっすぐな髪に憧れる。
セットする方の身にもなって欲しいものだ。
色素の薄い自分の髪は結構気に入っているのだが。
今朝も湿気で自由奔放な髪をなんとかまとめて、学校へ来た。
教室にはいって、自分の席に着く。
鞄を置きながら、自分の一つ前の席の倉持の顔を覗き込むように
して挨拶を交わす。
「おはよ、倉持」
「おう」
相変わらず眠そうに倉持はを見た。朝練、早いものなぁ。
倉持と知り合ったのは去年の終わり頃。
入学して早々仲良くなった御幸を介して仲良くなった。
その頃から比べて大分伸びた、の髪。
の動きにあわせて動く髪を、倉持はじっと見つめる。
いつからか、その視線が少し熱を持ち始めたのは気のせいだろうか。
長くなっていく様を、倉持も喜んでいるのかと勘違いしてしまいそうになる。
「・・・お前、髪伸びたな」
「でしょー」
でも本当は、ボブくらいの短い方が好きなんだよ。
そのことを、倉持は知らない。
そして、何で私が髪を伸ばしているかも、知らない。
それでもよかった。秘めた想いは、心の中だけで充分だから。
伝えなくても、一番近くにいられるのなら今は。
それに、ロングヘアーになれたら、勇気もわくと想うの。
だって彼は、長い髪の子が好きだといったから。
だから当分は伸ばすつもりでいた。
あとから入ってきた御幸にも手を振りながら、は視界に入る
自分の毛先にそっと願いを託した。早く、伸びて。
放課後。
は思わぬ光景に、立ち尽くしていた。
雨天のために今日も室内練習だった野球部。
少し早めに終わったらしく、図書館で課題をやっていたは
帰り道に野球部が寮へ戻る姿をちらほらみた。
寮生の倉持がその中にはいなくて。
代わりに、人気のない校舎の裏側に彼を見つけた。
からは遠い位置で小さくしかみえないが、彼を見間違えることはない。
・・・ずっとみてきたから。スタンドから、教室から・・・秘めた想いが
この瞳に滲み出てしまうときは、必ず離れるようにしていたから。
近くにいて、最も遠い君に恋をした、私の日課だったから。
「う、そ・・・」
そこにいたのは倉持だけではなかった。
倉持が差し出した傘に入っている、女子生徒。
雨なのにその影響をまったく受けていない、まっすぐな髪。
腰まである、艶やかな黒髪。
どんな表情をしているかまではみえない。
でも、二人は同じ傘に入っていて、それは無理矢理ではなくて。
二人は言葉を交わしながら、歩き出した。
その様子から導き出されることは・・・ひとつだ。
頭が真っ白になった。
嘘だ。嘘だ。今までそんな素振り、まったくなかったのに。
一番近くにいたのは、私だったのに。
「・・・・・・・・っ」
ばか、みたいだ。
そうだ、長い髪の子なんてたくさんいる。
倉持がすきなのは、昔からあの子だったのだ。
視線に含まれた熱は、私の髪越しに彼女を想っていたのだろう。
あぁ、なんて。
気づいたら駆け出していた。
泥が足に跳ねるのも構わず、家まで走りこんだ。
逃げ出した。もう何も考えたくない。
走るたびさらりと流れる自分の髪がみえて、涙が出た。
「もう、・・・・っ」
いらない。
こんな髪、いらない。
だって彼は必要としていない。
彼が好きなのは、私でも、私の髪でもないのだ。
君のために伸ばした髪なんて、もうみたくもないよ。
「・・・本当に、いいの?」
「・・・・・・・・・お願い、」
さっさと、切ってしまって。
君を想った日々を語る、私の恋の証を。