物好きなんかじゃない。

ただ、手探りで生きているだけの普通の少女。













 うらはら















手紙を読んだときの柾輝の顔は、本当に面白いものだった。
遠くでそれを確認したは、よっしと硬く握りこぶしをつくった。



作戦、成功。



口元に無意識に笑みが浮かぶ。
一日経った今でも、その喜びは薄れることなく増すばかり。


彼らと比べれば地味な、そりゃあもう一般生徒Aくらいの
存在でしかない私がとれる行動。

強い印象ならば、呆気でも嫌悪でもなんでもよかった。

ただ、彼が私を忘れなければ。






視界の隅に柾輝を発見し、はすぐさまダッシュで駆け寄った。
カメラとボイスレコーダーは常備なのは言うまでもない。
そして、柾輝の表情がものすごく厭そうなのも。




「黒川君、ぜひ取材を!」

「・・・断る(本気で厭だ)」

「えーっと、二人の進展はありましたか?」

「(だからなんで翼となんだよ!)」

「噂としては、キス位はとっくにしてるだろうとのことですが」




進展も何も、二人は親友だと仲間だと知っている。
それでも、私の会話の糸口はこれくらいしかないのだ。


”じゃない濃い人物ならば、彼も気になるから。


今日もストーカーまがいの一定距離を保って取材中。
もちろん、柾輝は何も答えないが。

にこにこと笑顔を絶やさず、忠犬の如くいれば
柾輝も邪険に扱えないのはわかりきっているのだ。
優しい彼のそんな部分をついて行動していることに
なけなしの良心も痛むが、全て作戦のうち。




「沈黙は肯定ととりなさいとの西園寺さんの指示ですが、いいんですか?」




今にも厭な汗を流しそうな柾輝に笑うと、予鈴がなったので
はまた次に!と走り去った。
収穫はないけれど、心に確かな手ごたえ。




心の中で微笑みながら廊下を歩いていると、人にぶつかった。




身長の差が激しい先輩のみぞおちに鼻を見事にぶつけ、はくぐもった声をあげる。
相手にとって何のダメージも与えられてないことに
ちょっと、屈辱。




「ぶふっ」

「何や、前見て歩け!・・・ってやないか」

「あ、サル先輩」

「また柾輝んとこに通い妻か?」

「全て作戦のうちですから」




本鈴がなり、廊下が静まり返る。
ひと気の少ないところまで歩きながら、直樹は首をかしげた。




「作戦、って・・・この前の手紙の事か?」

「そうです。サル先輩の助言のまま行いました」

「・・・こらまた随分、突飛な」




溜め息まじりの声など気にしない。
たぶん椎名先輩には気付かれてるだろうケド、私とサル先輩が
仲のよいことはあまり知られていないから。




「でも、黒川君は気になってるでしょ?結果オーライ」

「ポジティブすぎや」

「乙女は皆前向きに生きているんですから、いいんです」




柾輝としてはよくないやろ、と直樹のつっこみはまたもやスルー。
そういってるくせに、直樹の笑顔は妹を見るような表情。
ぐしゃりと豪快に髪を撫でられる。





「ごめんね、はもうちょっと先になると思うけど」





もう少し、このままでいさせて。




話がしたいの。どんな表情でもいいから。私を見て欲しい。

他の女の子と笑うより、椎名先輩と笑っていてくれた方が
まだ諦めもつくから。

彼に幸せになって欲しいと思える反面、そのきっかけが
女じゃないのを望む自分がいる。

あぁ、矛盾。






「・・・きばりや」






ぽん、と頭を叩くと、直樹はいつもの溜まり場の階段へと
歩いていった。
こっちを振り返らずに振られた手が優しく見えた。


















当の柾輝は、翼と二人ですでに階段にいた。

廊下から聞こえる小さな足音に
からかうような表情で、翼は飲んでいた紅茶のパックから口を離す。




「結構可愛い顔してるよね、あいつ。だっけ?」

「・・・は?」

「この間帰りにみたんだよ。うちの近所らしくてね」

「今度は、翼のストーカーか?」

「・・・・・・。いいや、誰だか見紛うところだった」




訊ねるように顔を上げた柾輝の視線の先には
にやり、と向けられる翼の笑み。




「・・・・・・だから最近、やたらべたべたしやがったのか」

「正解。楽しかったろ?」

「・・・・・・・・・・。厭な奴だな、本当に」

「お生憎様。俺は男なんて趣味じゃないからね」

「新聞部なんて放っておけって言わなかったのは、」





翼の笑みは崩れない。肯定の微笑みが柾輝にむけられる。
とても満足そうな表情。





「理由なんて聞くの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「いつも以上に側にいられた気分はなんだって?」 

「・・・俺が知るかよ」

「へぇ、じゃあ他のことならわかるわけ?」





何をいいたいかなんて、その瞳だけで通じている。





「で?」

「・・・気づいてるっつの」

「なら、随分野暮だねぇ、柾輝にしては」

「・・・・・・・・・・・・(そりゃあ、)」




知っていたからこそ、だ。


時々見せる悲しそうな表情。
視線があうだけで輝く瞳。

濃いキャラは、自分の前だけだと。






「いい加減、彼女に失礼なんじゃないの?」






げし、と蹴り押された背中。

そこからみえるのは、ちょうど下を通っていたらしいの姿。

そして、その表情。






「譲れなかったの、この想いだけは」






変なテンションのキャラじゃない。いつもみせる笑顔でもない。

ふっと表情が消えた顔。
静かに響く声。

まっすぐ前だけを見据えたがっている瞳。





「いくら迷惑をかけようとも、誰にも。だから、」





縋りつくような響きを含む声に気付いたのは、俺だけだろか。







「・・・頑張れよ」






小さく呟いた声は、に届いただろうか。



お前の行動は、充分すぎるほど俺に効果があったのだから。
もう一歩先に踏み込むことくらい、お前は出来るだろうから。

本人は無自覚だろう急に輝いたの瞳に

俺の心でなにかが燻り始めた。







「これからもよろしくね、取材」








この関係で、もう少し。




お前の茶番に付き合ってやるよ。