暑い。暑い。暑い・・・!
課題提出で久しぶりに学校へ来たら、もう私の身体は融けそうだった。
青い空、雲ひとつない快晴。焼け付くような太陽。
グラウンド脇の水道で汗ばんだ手を冷やしていると、カキーンと
快い音が鳴った。白球。泥。野球部。夏が似合う。あぁ、青春だなと思う。
そういえば、あいつもいるんだよな。
長期休みでしばらく見ていない彼の、輝く空の元のその姿を
目に焼き付けていたいな、と思ってグラウンドをみようと項垂れていた顔を上げる。
すると、野球ボールが飛んできて、目の前に転がってくる。
ころころ。泥だらけであったが構わず拾う。熱い。
泥が付いていても白く輝くそれは、眩しかった。
「あ、じゃん」
あちーな、といいながら、クラスメートの御幸が近づいてきた。
「御幸。合宿中?」
「まぁな」
手に持っていたボールを、御幸に渡す。
大きすぎて握り辛かったそれは、すっぽりと彼の手に納まる。
「相変わらず、ダルそうだな」
「暑いの、苦手。夏はずっと扇風機にしがみついてる」
「はっはっは。でも、こんな晴れてんだぜ?」
そういって、御幸は焼けた肌から白い歯を見せて笑った。
その首筋にも、私を同じように一筋の汗が流れた。
太陽にあたって、きらりと光る。きれいだ。
「これから試合なんだ」
「練習試合?」
「あぁ。でも、レギュラー的にはかなり大事」
「そっか。・・・夏、だもんね」
今年は甲子園を充分に狙える。
一回も負けることの許されない、背水の戦い。
夏の終わりは三年の引退を表す。
彼らの夏が、長いものであることを、私は強く願っている。
自分でも意外な言葉が、さらりと出てきた。
「御幸、打ったら教えて。いつでも、どんな方法でもいいから」
「いいけど。・・・何で?」
「んー、眩しいから、かな」
蝉の声が聞こえる。
夏は始まったばかりなのに、一瞬で燃え尽きそうでこわい。
首を傾げる御幸に、あはっと笑った。
「なんか、ずっと観てたくなるよ」
太陽が二人を照らす。暑く、暑く、グラウンドに熱気を与える。
練習試合の相手を訪ねると、因縁の学校らしい。
それでも、今年は面白い一年生の投手が二人も入ったときいている。
「さぁ、どうなるか」
御幸は青空が、よく似合った。
教室とはやはり別人で、目の前の野球と勝利を見つめている瞳。
「勝利の女神はどちらに微笑むでしょうか、ってとこかな?」
ふふ、と笑う。
私の白い肌は、夏の太陽に似合わなかった。
べしっ!
御幸の太くて長い、しなやかな指が私のおでこを弾く。デコピン。
軽くだったけど、痛くて吃驚して私は御幸を見た。
「ははっ、バーカ」
彼は、すごく眩しい笑顔を浮かべていた。
野球にかける情熱が、その真摯さが窺える精悍な顔。
まっすぐ勝利を見つめ、渇望する。
それに見合うだけの努力に裏づけされた自信。
「勝利の女神が女なら、男の俺から口説くもんだろ」
そういうと御幸は、にしし、と笑って空を見上げた。
この瞬間、私は恋に落ちた。
私の顔が赤いのも、太陽の熱のせいにできるだろうか。
御幸はそれに気づかないだろうか。
肌を焼く太陽が、短い夏を熱し続ける。
空は、いやになるほど青かった。