霧の守護者として髑髏の代わりに現世にでてきた。

   クフフ、と哂っていても、誰を前にしてもずっと、   

   何度転生しても残る胸の傷跡が疼く。



 
   ボンゴレが誇る特殊戦闘部隊だろうが、敵はたかが知れていた。
 
   赤子の手を捻るくらいの敵に、いきがっているマフィアに

   嘲笑がもれた。



   「クフフフ・・・強欲のアルコバレーノですか」



   まるで昨日のように鮮明に、しかし数百年が過ぎたかのように
 
   焦がれるあの晩に、彼女がつけた痕。
  
   幾度も繰り返した情事の後で力ないはずの彼女の白く細い手から
 
   祈るようにつけられた、一種の呪い。

   荒々しく食い込んだ爪の感触が、いつまでも鮮明に残っている。


    

   「骸・・・これで、あたしのものだよ」




   彼女との情事は神聖なものを汚し、破壊していくような快楽があった。

   ただの情事とは感じなかった。なにか、もっと深いなにかがあった。

   僕はそれを知らぬうちに欲していた。
   
   満たされず、ずっと飢えて、君を求め続けた。

   完成などない、心の果て。


   そして、君を抱いているときだけは愛に触れた気がした。
 
   
   愛など、必要ないと思いつつも。

   そんなつまらない、不必要な感情を君はいっとう大切だと笑うから。


   

   「・・・僕はこんなところでグズグズしてはいられないんですよ」
     

   

   今宵、並盛中に行く前に、彼女の家へ寄った。

   髑髏の姿の僕を見て、彼女は黒目がちの大きな瞳を見開いていた。

   本当は、それだけで、彼女を抱きたいと切に思ったが
 
   それにはまだ早すぎた。

  
   彼女は驚き、

   
   「嘘でしょ?本当に、骸なの?」


   と何度も繰り返した。


  
   「えぇ、僕ですよ」


 
   フッと笑んでみせても、彼女は安堵の息の後

   悲しそうに微笑むだけだった。

   そして、僕があまり現世に出ていられないことも話すと

   彼女は彼女らしさを手放して笑んだ。
 
  
   

   「そっか・・・」




   薄情なような一言。

   しかし君はその一言だけで自分の虚しさをかみ殺し、髑髏の中に次は
 
   いつ逢えるかわからない僕の面影を探すのでしょう。
   
   黒曜で出会い、引き離されるまでの日常を辿り、君は僕を追い求めるのでしょう。

   それが無駄だとわかっていても。

   強く気高い瞳を少し曇らせて、ひとり頬を濡らすのでしょう。

   陽だまりのような笑顔に霧をかけて。

   

   「骸、」


          
   続きをいえなかった彼女の唇。

   触れることさえ躊躇わせるような空虚。

   
   彼女が再び僕の前で笑うためにも、

   一刻も早く身体を取り返さなければいけないんですよ、ボンゴレ。

   
   僕ではない僕を見て傷付いた彼女の

   まるで聖女のように汚れない、とても美しい姿を手に入れるために。 
   





 マ リ ア の 爪 痕






   今度は僕が一生の証をつけてあげましょう、愛しい


   




19.02.10