季節外れの変な時期に来た三人の転校生。

   目立つ三人の中でも、より異質な彼に私はひと目で心奪われた。

   端整な顔立ちに鍛えた体躯。そして氷より冷たい瞳。
 
   穏やかな口調の中に含まれる毒に蝕まれながら

   私は彼の虜となった。


 
   「僕はあなたが気に入りました」

   「・・・え?」

   「ほら、。こちらへどうぞ」


   
   やさしい日常。

   彼らがやっていることが犯罪だとしても。

   私に注がれるやさしい愛が、たまらなく温かかった。



   「危ないから、近づかないほうがいいよ」

   「何で?」

   「六道君たちなんて・・・」

   「骸のこと何も知らないくせに・・・口出さないで」
 
   「・・・っもう知らないから!」



   止める友人たちを無視して、今までいた居場所さえも

   捨てて、私は骸と共にいることを選んだ。

   優等生で信頼も厚かった私のその脆い足場は

   あっという間に崩れてしまった。

   


   「、まだですよ・・・僕は、満足していません」   

   「・・・ぁ・・・・ッ」   

   「もっとです、ほら・・・っ」
 
 

   
   愛欲を受け入れるのさえ、とても容易いほど愛しくて。

   濡れてしまう躰が私の心を語っていた。

   激しい情事は私の中の何かを壊していってくれた。
 
   そしてそんなことを気に留めることもないほど、骸は私のすべてだった。

   

   「愛していますよ、


     
   そう囁きながら絡める舌を切り落としてやりたい。



   「ほら・・・その声で、もっと啼いてください」

   「・・・・・・ぁあ、ン・・・・・骸・・・っ」

     
  
   私を深みへ落としていった、あの愛しい指をへし折りたい。

 
   いっそその躯に傷をつけ、両足の健を切って動けなくして

   私だけのものにしてしまいたい。


  
   しかし、もう彼はいない。
 


   骸は私に何も告げることなく、突然去ってしまった。
   
   恋人だの愛しているだの散々囁いておいて。

   彼の心を覗いても、きっと私なんていないのだ。

   すべてを吸い取って、奪って、去っていった。

   まるで吸血鬼のように。


   

   「骸ぉ・・・っ」




   初めて出会った教室、彼らがよく居た隠れ家。

   一緒に歩いた道、四人で買い食いした駄菓子屋。

   出会って、彼が去るまで一緒にいた二人の軌跡を私は毎日辿る。

   欠片でもいいから、彼を見つけたくて。


   不様な女でもいい。

   彼の傍にいたいだけなのだ。

   彼にすべてを奪われて、私には何も残らないとしても   

   構わないから、あなたのものでありたい。

   あなたは私を愛していると、確かな証拠がほしいの。
 
   言葉なんて薄っぺらいものでも、幾度も重ねた情事でもなくて。

   
   いつも一緒にいた骸がいないと、私の隣はカラッポで。

   壊れてしまいそうだから。

   誰も骸の行方を知らなくて、狂ってしまいそうだから。

   あぁ、いっそ骨の髄まで一緒になれたらよかった。




   「さん・・・」

   「ん・・・っ・・・もっ、と・・・」
  
   「・・・・・・・愛してる、よ」




   私にとって、この世界は私と骸とそれ以外でしかない。

   その中で骸がいない世界なんて、誰でも同じだから。

   寂しさを埋めるのに抱かれるなら誰でもよかった。


   骸との軌跡を辿って、癒えることない傷を抱えて

   狂いそうな心と躰を治めるために毎晩男と寝た。

   愚かだとわかっている。

   それでもそうやって私は、どんどん自分を骸に捧げていった。
 
   今はもう傍らにいない、愛しいあなたへ。

   それこそが骸の狙いだって、わかりきっているのに。

   
   幾度も違う人を好きになろうと務めた。

   でも、できなかった。

   勝手に奪って、勝手に去っていく最低な男だとしても
  
   私は骸しか欲していないのだ。


   だからもう諦めてたけれど、わたしの心は限界寸前だった。

   姿も欠片もみえない、私だけの幻想だったのかと思うほど儚い彼。

   それでも彼を欲する私は、自分の頭の中の骸と愛し合うのだ。      
     
   思い出を繋ぎ合わせて、彼の感触を、体温を、反芻する。




   「・・・・・・私もよ」




   もう口で言えるほどのやさしい愛なんて、意味がないって知っている。
   
   いくらでもあげるわ、そんなもの。

   だから彼を頂戴よ。



   「骸・・・?」

   「躰は大丈夫ですか、

   「ちょっと、だるい・・・てか、腰痛い・・・」      

   「クフフ、今日はサボりましょうか」



   あの日も、あの日も、骸と寝た部屋にあった

   乱れたシーツ。使ったゴム。二人の愛液。

   偽りだらけだった情事をした部屋に確かにあった跡は

   私の見た幻想で、全部嘘だったのだろうか。



   「・・・さんって、六道の愛人なんだって」

   「えっ・・・近寄らない方がいいよ」

   「大人しそうな顔して、やることはやってるみたいだし」

   「顔がいいとなんでもできていいね」

  
   
   学校での陰口は増え続ける。

   友人と呼べる人間は激減した。

   残った少ない友達といても、笑うことさえ難しい。


   捧げた分だけ疲れていっただけで・・・私には何もなくなったのだ。

   
   結婚だとか、恋人だとか、そんなものなくていいから。

   ただまた私を愛して欲しいだけなの、骸。

      
   まだ骸が居た日。あの日、幾度もくり返した情事の後、

   疲れきった躰を動かして私は彼の躰に爪を立てた。

   闇の中に光る彼の鮮血を舐めとりながら、恍惚の笑みを浮かべて呟く。

   
     


   「骸・・・これで、あたしのものだよ」




 
   それは、彼が私を忘れないでいられるようにつけた呪い。

   祈るように瞳を閉じて、荒々しく立てた爪は私の本心。

   必ず私の元に帰ってくるように。

   必ず私を愛すように。

   そんな願いはあまりにも儚いものだけれど。





   「嘘でしょ?本当に、骸なの?」





   ある夜、可愛らしい女の子が私の家に来た。

   ・・・・骸、だった。
   
 
   驚いて、何度も問うしかできなかった。



   「えぇ、僕ですよ」



   そんな私に骸はフッと笑んだ。 
    
   嬉しさと、悲しさが混ざって表情が作れなかった。

   骸、骸、骸・・・!

   ほんとは抱き締めて、離したくなかった。

   殺してあげたいほど憎んでいた。

   なのに、彼の笑顔になにもできなかった。

  
   そして同時に、彼の腕で抱かれることを願っていた私が

   思ったことは一つ。


   なんで女の子なの?

   私を抱きたくないから?

   


   「骸、」


 

   言葉に詰まった。

   私のすべてを引き換えにしても骸が欲しいのに。

   骸の裏切りに凍てついた心は少しの刺激でも壊れてしまう。



   「・・・



   骸は私の頬を撫でて、そのまま口付けた。

   柔らかい感触。小さな口。

   本来の彼の姿ではないから、もちろん感触も違っていて。

   薄く冷たい唇じゃない。

   細くしなやかな無骨な指じゃない。

   彼はもう私の傍には還ってこない・・・?


   いつだって骸の前では笑っていられたのに、

   口付けでさえわたしの心を締め付ける。

   霧に呑まれた太陽は、その輝きを発揮することはできない。



   愛なんて、もう信じないよ。



   だって、誰も私を愛してなんていないんでしょう?


  

   「・・・・・・っ」



   口付けの瞬間わずかにみえた、骸の胸の傷。

   豊かな胸に痛々しい爪痕。

   あれは、





   「・・・必ず僕は帰ってきますよ、君のもとへ」




     
   そう囁かれた声と同時に、骸は再び消え去っていた。




   「・・・・・・愛してます、」 
 



   私の耳には、甘く愛しく、そして憎くてたまらない

   骸の声がいつまでも残っていた。


  
   この並盛も、黒曜も、骸の面影を忘れることなんてないんだ。

   そして私は、まだ骸から離れられなくて。

   嘘だってわかっている骸のその言葉を、どこかで信じてる。

   そしたらまた笑える気がするから。骸が好きだって言ってくれた笑顔で。    
  
   一人で泣くことにも耐えられる気がするから。骸が拭ってくれるって信じて。








 ヴ ァ ン パ イ ア








   ねぇ神様。

   全部失っていいから、もう一度凍えた心に彼を下さい。

   








09.02.10