どんなことをしてでも、手に入れたかった未来。
生に縋ることすら失いかけた私が、切に願った想い。
瞳には、未来しか映さない。それがどんなものだろうと。
強請った未来
今朝は英士ではなく、乙姐さんの声で眼を覚ました。
夜に活動する彼女は少し疲れを残していたようだったが
変わらぬ笑顔で、手紙を渡してくれた。
の暮らすこの家の住所は、一握りの人しか知らない。
念のために、遠方の方の手紙は夜桜蝶屋の方に送ってもらうのだ。
尤も、手紙を出すような人はあまりいないのだが。
今日の手紙は二通。
両方とも送り主の名前は書かれてなかったが、筆跡で誰だかわかる。
白い封筒を開けると、中からあの人の字で書かれた
短い手紙が入っていた。
「今回は、随分と・・・返事が、遅いようだけど」
眼を通すと、変わりないようでとても元気だと書いてあった。
私を救ってくれた人が元気でいるだけで充分だ。
英士の方は?とも書いてあるくらいなので、心配は無用らしい。
「『もうあの日からすっかり時が過ぎて、時間がないよ』」
大丈夫?という文字が、やけに大きく見えた。
そうだ、もうこんなに時が過ぎてしまったんだ。
約束を果たせないまま過ぎていく時間は残酷で。
真綿で首を絞めるような、蛇の生殺しのような日々がとても辛い。
息の出来ない沼の中で必死にもがく私の姿は、酷く滑稽に映るだろう。
あと少し、あと少しなのに・・・。
伸ばした手が、届きそうで届かない。
近くに見えるのに、とても遠い。
無力な自分が悔しい。
何があっても約束を守るといって、私は今ここにいるというのに。
己の存在理由さえ、私は証明できないのだろうか。
読み進めると、最後の方に、少しだけ書かれていた文章に
は眉をひそめた。
手紙を持つ手の力が強くなる。何も攫めていない無力な手が。
「『どうやら、君の家のほうが動いているみたい。
英士の存在にはまだ到ってないみたいだけど。気をつけてね』」
溜め息が出た。
どっちにしても、もう時間が無いというのか。
あの人には迷惑はかけられない。相談してね、とは書いてあるが
そんなこと、には出来なかった。
英士を救ってあげて、といわれて早数年。
一体私はいつになったら光が見えるのだろう。
いや、光など当たるはずが無いのか。影なら影に居たい。
だからお願い、もう誰も私に干渉しないで。
願う幸せなど、その先は既に自分自身のことではないのだから。
「もう、一通・・・?」
あの人の手紙を読み終わり、は握り締めてできた皺をのばして
服の入っている箪笥の奥に閉まった。
この文通は、英士にさえも秘密でやってきているからだ。
もう一通の方の手紙を開けてみる。
ふわり、と花の香りがした。季節ではないが優雅な、桃の香り。
桃はの好きな花だった。
上質な紙に書かれている、綺麗で丁寧な文字。
ぎくりと、身体が強張った。
あぁ、例の人からも手紙が来てしまった。
あらゆる術を使って手に入れた、現在。
あのときで言えば、未来だった。どうしても必要だった。
自分はどうなってもいい、と頭を下げて頼み込んだ。
あのとき以来、流れることない涙はどこに消えたのだろう。
読み通すと、息が詰まった。
私の全てをかけた、あの人との約束。
例の人をも利用した私の存在理由。
「『時間が、ない。奴らも疑い始めている』」
四方から、時間が無いと叫ばれる。
投げ出せるくらいなら、楽だったのに。
胸が痛くなる。頭が割れそうだった。
『もう、僕でも無理かもしれない』
すっかり寒くなった風に、太陽がどこかに消えた。
寒くなった心身にそれは沁みる。
どんなことをしてでも手に入れてみせる、と誓ったくせに
私はなんて無力なんだ。
最初の力はどこへ行った。手が尽きたわけでもない。
強請った未来に光など求めてはいけない。
英士を救えたときに、私の玉響の幸せが垣間見れるのだろう。
あの日描いた未来を、現在にするまで
駆け続けるしかない。
そっと、障子が開いた。
「、ちょっときてくれる?」
「英士。わかった、今行く」
手紙をそのままに、は英士の元へ駆け寄った。
話しながら家を出て行く。
『限界だよ、』
最後の一行が、ずしりとの心に残った。
その言葉が意味することを、理解できないわけがなかった。
05.12.26