俺は戦闘での怪我が多いと思う。
ちょっとした傷よりも、大きなものばかり。
負けることは少ないけれど、相打ちのように勝利の代償は大きい。
花の行方 行方
今回もまた、勝利の代わりに受けた傷は大きかった。
自分でもさすがにヤバイと思った。
血が止まらない。息が上がる。刀が握れない。
ふらふらになって自由が利かなくなった自分の体が
ただ倒れていくのを感じることしかできなかった。
そして気が付いたら、いつもの場所。
「やっと起きたか、馬鹿」
「・・・・・俺、またっすか」
「あぁ、まただよ。三日も目ぇ覚まさなかったんだぜ?」
いつものようにいたのは十一番隊の斑目一角。
酒のビンを片手に、隣に腰掛けて恋次を見下ろしていた。
あぁ、戻ってきたんだな。生きているのか。
そう思えた。
毎回暇つぶしに見舞いにきてくれる十一番隊の面々は
一緒にいてとても心地が良かった。
そして、暇のつぶし方を知っているようで、退屈することはなかった。
「・・・・・蛇尾丸、無事だよな」
自分の枕元にある斬魄刀を確認する。
名前を呼んでも返事が無いので、きっと寝ているか無視かどちらかだろう。
しかし、見舞いの人がいないときほど暇なものは無い。
体は動かないし、やることはないし。
前線に復帰して、いつものように仕事がしたい。その思いが募るばかりだ。
俺はこんなところで止まっているわけにはいかない。
あの人を越す。その目標を達成する為に。
野良犬でただ無力だった俺が手に入れた力だ。もっと高めたい。
静かな休養を喜ぶ反面、休んでいる暇など無いという焦りが生まれてくる。
どうしようもないもどかしさに溜め息をつくと
昼の分の薬を水で流し込んだ。
同時にとてつもない眠気が襲い、意識を手放した。
「・・・・・・ですね」
夢だろうか。きっと夢だ。毎日見る、変な夢。
誰かが俺の汗を拭いている。
寝ているときには見舞いは来ないし、四番隊の奴らもこない。
細く滑らかな指の小さな手が自分の顔の近くを掠める。
起きて顔を見てみたい。だが、強力な薬はそれを許さない。
花だろうか、良い香りがして、恋次は再び意識を手放す。
そして、目覚めると誰かがきた気配も無く
ただ俺の枕元に一輪の花が毎回置いてあるのだった。
夢か現か・・・。
暇な療養の今、俺は大抵この花のことを考えている。
「っつーことなんすけど。もしかして、二人すか?」
一番可能性が高いのは雛森か乱菊さんだが、二人とも最近忙しく
この各隊詰所の近くにはいないらしい。
というわけで、全く心当たりが無いので
一番出入りする十一番隊の二人に尋ねてみた。
「はぁ?」
「男から花貰っても嬉しくないっすよ」
「どんなイヤガラセだっつーの!俺なわけねぇだろうが」
「一角が花を摘んでいるところなんて・・・・うぇ」
本当に気持ちが悪そうに弓親は眉間を押さえた。
一角は本当に失礼な奴だなおい!とそんな弓親を叩いた。
この二人ではないとすると、一体誰なのだろう。
そう、ですか・・・と歯切れの悪い返事をして、恋次は少し項垂れた。
この二人だった方が、楽でよかったのに。
大体、考えるのなんて向いてないんだ、俺の頭なんて。
「・・・にしても、君も花が似合わないねェ」
「・・・・・・・・大きなお世話っすよ」
弓親のクスクスといった笑いに、恋次は考えるのをやめ、
相手を軽く睨むようにして見た。
そうか、この人は花が似合うのか・・・・。少し、笑えた。
そんな風にするうちに、
俺の枕元には花が次々に増えていく。
早く治って下さい。すぐ復帰できますよ。お大事に。
そのような意味が込められている花は何だか心強く感じた。
でも、やはり花は花。
水も無いこの場所では、花は二日と持たず
萎れて、花弁は茶色く枯れていた。
そんな花を見るたび、
窓の外から風に流すたび、
前向きな思いは消え、俺は少し厭になった。
なんともいえない感情がこみ上げてきた。
開くのがあっという間なのは、自分の力ではないことなど
・・・・・わかっていながら、思ってしまう。
こんなところで休んでいる場合ではないのだと、言われているようで。
あの人の見下ろす視線が、目に浮かぶ。
そんな俺の葛藤など、時間には関係なく
あの人の下に俺はまた戻る。
あの人に届く為に。
現場完全復帰の日になった。
「阿散井副隊長、復帰おめでとうございます」
「・・・おう。世話になったな」
嬉しそうに見送ってくれる四番隊員。
それに笑顔で応えるが、六番隊舎に戻る足が何故か少し重かった。
自分でもわからない。でも、何かが心の中に残っていた。
ふと目に入った書類の山。
運んでいたのは四番隊員。そんなことは問題ではなった。
そいつの長い黒髪には、
俺の懐に入っている、
もう萎れかけている、
楽しみだった花と、
全く同じの、
小さな花弁が、ついていたのだ。
でもそいつはこちらを見ようとしない。
ただ仕事を進めようとするそいつが動くたび、毎日嗅いでいた香りが漂う。
もしかして。もしかすると。
雲の隙間から差し込む光のような可能性を見た気がした。
でも、俺は怖かったのだろうか。
どうしたんです?と声をかけられ、なんでもなくないことなのに
俺はなんでもねェよ・・・と詰所から出て行った。
その光を掴むことはできなかった。しなかった、のだ。
なんだかすっきりしない気分のまま、俺はいつもの日常に戻っていった。
何事も無かったかのようにしたいのに。
せっかくの復帰なのに、全然嬉しく感じない自分がいた。
久しぶりの六番隊舎はやはり緊張感があって、あの人の視線を思い出させる。
浮かない顔で、すっきりしない気分で此処にいるのは
何だか居た堪れなくて、俺は休憩と称して逃げ出した。
そこにちょうど、珍しく弓親が手に数枚の紙を持って歩いてきた。
「あれ、もう復帰して良いんだ?」
「あ、はい。おかげさまで」
浮かない表情の俺を見て、弓親ははっはーん、と言った感じで
全て理解したらしく、笑った。
「・・・で、花をくれた相手はわかったのかい?」
理解した上で、こう訊ねるのだから意地が悪い。
恋次は弓親を軽く睨むが、なにもいえなかった。
俺は、少しの可能性を手放した。
どんなときだって、逃すのは容易いのに
手に入れるはとても難しい。
フワッ・・・。
そう表現するのだろうか。
玩具を見つけたように笑顔の弓親と悩み続ける俺。
その間に花の香りの混じった風が通り抜けた。
「恋次さん、これ」
声をかけてきたのは理吉だった。
何故か少し混乱したような、そんな様子で恋次のところにきた。
手には、香りの元が。
「この花、恋次さんの机にあって。恋次さん気付かなかったみたいで。
隊員が誰に渡すんだ、って煩くて、」
「・・・・・・!」
理吉の手にある花を見て、恋次は固まった。
目を見開いて、喉から声にならない言葉が次々と出る。
「・・・・また、その花が来たんだね」
弓親が意味深に呟いた言葉は耳を通り抜けた。
あいつが、きたのか?
全く同じ花。何か意味があるのだろう。
じゃあ一体どういう意味だ?
逃した光が、また差し込んできた。
百回ダメでも、百一回目には叶うかもしれない。
何度でも、何度でも、光が差し込むことはあるのだから。
もう、絶対逃しはしない。捕まえてみせる。
気になっていたんだ、この花が。
この花をくれる奴が。
恋愛感情なのか、興味本位なのか
それがはっきりするのはもう少し後。
俺の決心がつくまで。臆病な俺の準備を待ってくれ。
花は、お前に逢うまで枯らせはしない。