靄がかかっていたような思考。

   今、その靄がすっきりとまでは行かないが

   晴れた気がしていた。

   それが、気だけだったのを後に思い知らされるとも知らず。









     心の行方











   ぐいっ。

   双子から解放されて、安堵の息を漏らしたの腕を
 
   強引に引っ張り、近くにあった小部屋に引き込む。

   埃臭く、物で溢れかえっているそこは、二人が入っただけで

   充分窮屈だった。

   否応なく身体が近く、彼女の甘い匂いがした。



   「何、するの・・・ロン」


  
   ふとみえた、髪と同じ色の彼女の睫毛がやけに長いのに驚く。

   訝しげに眉をひそめた彼女の瞳はいつものように真ん丸だった。

   でも、彼女の瞳に僕が映らないのが悔しくて。


   

   「・・・・・・っなんで、僕を、避けるの」



   
   やつあたりもいいとこだ。自分に心の中で舌打ちする。

   ハリーがロンの家に来るのを知り、邪魔しては悪いと

   彼女はあまり来なくなった。

   それは寂しいと思わせるには充分で。

   今回の休みを一緒に過ごせるのを知って、どれほど嬉しく思ったか

   自分が一番わかっているはずなのに。

   いてくれるだけで、楽しいと、嬉しいと思っていたのに。



   「・・・・・・・・・、」



   は苦しそうに視線を泳がせるだけで、何も答えない。

   紡ごうとする言葉が見つからないかのように困惑している。

   
   心臓の音が、とても大きく聞こえた。
  
   それがどちらのものなのかわからないほど、二人は密接していた。

   体温が高くなる。どちらの熱かわからない。
 
   理性的な彼女は、いくら男慣れしていないからといって

   こんなことで動揺はしないだろう。        
   
   多分これは、僕の心の素直な反応。
   

   
   おーい!、ちょっと来いよ!


   
   外からフレッド達が彼女を呼ぶ声がする。

   行ってきなよ、といえるほど僕の心に余裕はなかった。



   「・・・・・・ロン、フレッドが呼んでるわ」


   
   腕を振り払おうとすればできるはずなのに。

   彼女はそれをせず、ただロンを見上げ、困ったような声を出すだけだ。

   どうしてだろう。期待をする前に、頭はまた混乱してきていた。


   なぜ僕の目を見てくれないのだろう。

   悲しいのか悔しいのかわからない。ただ、胸が痛かった。




   「っ、僕とは、目も合わしたくない?」



  
   縋るような、吐き出すような声だった。

   こんなことで全てを吐いて楽になれるのならよかったのに。

   そうよ、なんていわれたら頭は真っ白になるだろうに。

   出してしまった言霊は、もう二度と消えない。


   どうして、という疑問詞が埋め尽くす頭の端で、ただそう思った。    

   
   胸が痛い。頭が混乱する。

   埋め尽くすのは疑問詞と。兄たちの声が響いて煩い。

   雑踏の中に立ち尽くす感覚だった。

   ようやく、彼女の方を向く。恐くて向きたくない。


  
   「・・・・・・っなんで・・・・!」


   
   微かに向けた視線に、彼女は僕以上に傷付いた表情を見せた。

   自分の感情だけで溢れかえっていた頭が、一瞬晴れた気がした。


   かくん、と彼女は力が抜け、床にへたり込む。

   
   今にも泣き出しそうなエメラルドの瞳が、何かを求めていた。
   
   何かをいおうとしていた。



   「・・・何させてんの、ロニー坊や」

   「我らが姫に」


 
   動じもせずに現れた双子の兄にが飛びついた。
 
   それはまるで画面の中のように、ゆっくりと見えた。   
 
   嘘、だ。


   

   「・・・・・・ごめん、ね」



   
   か細く、涙ぐんだ辛そうな声がロンの耳を掠めた。
 
   太陽は変わりなく照っているはずなのに

   一体、いつになったら僕を照らしてくれるのだろう。