初めて出会ってときも、とにかく目に入ったのは
綺麗に輝く金髪だった。
動くたびに、風になびくその金色の髪はとても印象に残った。
タンポポの綿毛
空は快晴、風が爽やか。
もうすぐ夏到来!という感じの外は気持ちよかった。
今頃、教室では夕子ちゃんが一生懸命教えているだろう。
サボっている二人を除いたクラスの人たちは勉学に励んでいるだろう。
「・・・・気持ちいいねぇ」
「縁側で寝転がっている婆さんかい、自分」
「爽やかに風を感じてる少年には言われたくないなぁ」
一緒にサボる相手は決まっている。
同じクラスのシゲだけだ。不破とかも誘ったことあるけど、話が合わない。
よく考えれば理数が全然だめな私が合うはずもなかった。
ちら、と壁に寄りかかりながら、は横目でたなびく金髪を見た。
太陽の下では室内より綺麗だった。
「ん?何や、見惚れたか?」
反対方向を向いていたシゲがこっちを見た。
その拍子に金色の髪がサラサラとなびく。綺麗なストレートヘアー。羨ましい。
いつも輝いている金色の髪もそうだけど
ふらふらと居所を決めないシゲが、は好きだった。
羽交い絞めのように居所の決まったには、凄く眩しく見えた。
根無し草のようにどこへでも飛んでいけるシゲに憧れた。
風が良く通る屋上にいつも一緒にいるけれど、空を見ているシゲが
いつもどこかに行ってしまう感じがしていた。
タンポポを思わせるその金髪が羨ましくて、恨めしかった。
「・・・・・・・・・・・どっか、行くの?」
「んー?」
吐き出すように言ったの言葉に、シゲはさっきまで見ていた
視線を空へと逸らした。
昔、直樹が言っていた。
ふらりとどこかに行ったって。まるで消えるように。
何もない顔で、色々なこと抱えて。何も言わずに、ふらりと行ってしまう。
この頃のシゲの顔は、そのときの顔と似てるって。
「明日学校来たら、シゲだけがいないとか・・・ない、よね?」
「・・・・・・当たり前やろ」
煙草のようにポッキーを銜えながら言ったシゲの
その瞳は、かわしているときのもの。
わかってるけどさ、そういう奴ってことは。だから好きになった。
でもさ。
「何、どっかに行ってほしいん?」
「・・・あぁ、今すぐ私の前から消えて欲しい」
「冗談やってわかってても、シゲちゃん傷付くわ!」
「勝手に傷付け。私も傷心ハートブレイクなんじゃい」
あ、英語の部分は間違ってる気がするけど、あえてスルーね。
いつも隣というポジションを手に入れたけれど
シゲは本音を話してくれてない気がする。他の人は知っているのに。
何か、癪というか。
「もしかして・・・・・・・フラれたんか?」
「一応、目の前に彼氏がいるのに?シゲは私をフったんだ、へぇ・・・」
「・・・・何でそない機嫌悪いん?」
「・・・・・・・・・・知らん」
「なんやそれ」
いつものように切り返して、普通に話しているつもりだけど
どうしても冷たくなってしまう。
許してあげれる、最後まで待ってられるようないい女じゃないから。
全てを飲み込んで包み込めるような器じゃないから。
「・・・・・い、」
「い?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何でもない」
「間が長すぎや。気になるわ」
行 か な い で。
私をおいて、一人でどこかに行かないで。
・・・・・なんて、そんなこと言えるわけがない。
言っちゃ、いけないんだ。
しかも私は、そんな台詞が簡単に言えるほど、素直じゃない。
天邪鬼なのはわかっている。言葉にできない言葉がたくさんある。
あぁ・・・全く、今日は何でこんな乙女思想なのさ。
「何でも、ないから。気にしないで」
がそういうと、シゲは意地の悪そうな感じで
にっ、と笑った。にや、に近かったかな。
「・・・・・・何や、そないなことかい」
さっきのかわすときの瞳とは違う、全てお見通しっていう瞳。
悔しいけれど、いつもバレてるみたいで。
行かないで、って言えばあんたはずっとそばにいる。
そんなわけ、ないだろうに。
「そんな、ことって・・・・っ」
「今日は随分と乙女やなぁ、珍しい」
「きゃあシゲちゃん大好きだよvなんていう女、気持ち悪いじゃん」
「・・・・・・・・・・・はっきり言えばええやん、行かないで!って」
ケラケラとからかうようにシゲは笑った。
でも瞳はいつの間にか真剣なものに変わっていた。
すぐ、逸らされたけど。少し傷付いたみたい・・・かな。
は返事を返すこともできず、二人の間には沈黙が流れた。
微かな風の音だけが耳に入った。
「んー・・・・まぁ、」
そんな沈黙を破ったのはシゲだった。
沈黙というか、間というくらいの時間だったのだろうが
とても、痛かった。
シゲの視線は、の方を向いてはいなかった。
「・・・行くは、行くで」
「・・・・・・・・・・そう、」
「京都、な。サッカーに命かけんねん」
「・・・・・・・ボロクソに負けて都落ちしてまえ」
「ひっどいな!」
頑張れ。やっと命掛けたいものが見つかったのなら。
全てを捨てても構わないのだろう、もう。
命を掛けるということは、犠牲がたくさん出るということでもあるのだ。
金色の髪をずっと見つめていた視線を逸らしたかった。
でも、の視線はそこから離れなかった。離せなかった。
口に出る言葉と心の中で言う言葉が、逆なのは性分。情けないのは自分だ。
「・・・・・・・・・・っ」
喉が詰まった。
でも涙も嗚咽も出なかった。泣くこともできないか。
恨めしい視線に気付いたのか、シゲは小さくアホ、というと
その視線をやっとに向けた。
顔が熱くなった。恥かしさからなのだろうか、違うのだろうか。
「卒業したら、一緒に行こうや」
「はぁっ!?」
「ジョーダンやて」
「・・・よかった」
視線を向けてくれたことに対する「よかった」でもあった。
変に優しい言葉を掛けられて、期待してしまう自分が厭だから。
どうせ裏切られる浅はかな期待ならば、初めから持ちたくないから。
いくら不安に押しつぶされそうになったとしても。
「不安、か?は」
「・・・・正直、不安」
君が好きだから。
届かない思いだろう、叶えてくれない思いだろう。
わかっているから。
この思いが、君に届けば満足だから。届いて心に止めてくれればいい。
「・・・・・・・じゃあ、心はいつものもとに、ってことで堪忍してくれや」
「・・・・・・・・・・・・・・・・クサ」
「そやけど、他に言い方ないさかい」
「うっわー、ここにタラシがいるー。三上さんだけでいいっての、充分だっての」
「またあいつに口説かれたんかッ!?」
「口説くも何も従兄弟だっつーの。シゲに関係ないでしょうが」
「従兄弟は結婚できんやで!」
「・・・・・・・・・そういうなら、三上さんとしよっかな。どこにも行かないし」
「勘弁しといてくれや!どこにも行かんて、を置いては。約束するわっ!」
慌てて言うシゲがちょっと面白くて。
はクスクスと笑ってしまった。あ、今日初めて笑った気がする。
タンポポの綿毛を追いかけて、どこまでも行ける。
飛ぶなら、一緒に。
叶わないと思うけど・・・・・叶うと、いいなぁ。