暦上では近いはずの春はまだ遠く、変わらぬ冬の風が吹いていた。



   「人ってさ、人と人の間で生きるから“人間”っていうんだとよ」



   草野が言ってた、と付け加えられる。

   何故だか、先刻まで笑っていた修二の表情が
   とても、寂しそうに見えた。今にも壊れてしまいそうだった。

   冬の風のせいだろうか。頭が遠くなった。
   冷たい風で頭が覚めるはずなのに、夢の中にいるような感覚。
   でも紛れも無く現実と訴える、目の前の表情。


   「・・・でも、嘘ついて演じてまで“人間”になる意味って、あんのかな」


   完璧な『桐谷修二』って人気者を続けていく意味。
   察した意味を、考えたくなかった。


   やめて。やめてよ、修二。


   太陽が隠れて、互いの顔が暗くなった。


   

   「わからないよ」



   修二が息を吐く。白い、吐息は空気に消える。



   「・・・わからないから、私たちは人の中にいるんだよ」


   人は弱いから、群れるしかないんだ。
   人の傷は人でしか癒せない。だから、迷っても、戸惑っても、
   人の中に在りたいと想ってしまうんだ。

   どんな感情も、独りでは生まれないから。



   「・・・少なくても、私はそうだし、」



   何も言わずただ話を聞く修二の頬に手をあてる。冷たかった。
   互いの心がこれで伝わるといいのに。
   そうしたら、こんなにもどかしくない。
   でも、修二に私の言葉はきっと届いているから。



   「修二が“人間”じゃなくなることはないよ。私がいるから」



   彰も信子も、と慌てて付け足す私に、修二の表情がふと和らいだ。
   空気が柔らかくなって、安堵する。

   私たちは不恰好な硝子不細工。
   ちっとも美しくないくせに、すぐに割れてしまう。


   寒空の中に、鳥が群れていた。