膝の上に乗っかるプラスチックの箱。
   もちろん中身は入っていて、とてもいい匂いがする。
   でも、それは必要とされていない。



   作ってきた弁当は、無駄になった。




   (あぁ、ほんとバカ)



   
   マドンナちゃんに作ってもらってるって、有名なのに。
   あんな言葉を本気にするなんて。

   食べるわけないじゃないの、他人の弁当なんてさ。




   「・・・お弁当、二つもいらないよ」




   (彰にでもあげようかな)

      
   きっと目をキラキラさせて、すっごく喜んでくれるだろう。
   料理は不自由しない程度にできる私が、自身を褒めたくなるほどの
   出来栄えだから。
   一口食べて、それからどれを食べても、おいしい!って 
   あのしまりのない顔で笑ってくれる。     
   このまま帰って捨てるか、帰り道に野良犬にあげるよりかは
   充分幸せな末路だ。


   そう思っても、私の身体は動こうとしない。

 
   もうすぐ昼休みが終わってしまう。
   今いる資料室はほとんど使われてないから、このままいれば
   バレることなくさぼりになる。
   やろう、やろうと思っても、頭と身体は直結ではないらしい。



   「何のために、作ったんだろう・・・」



   もったいないや。

   早く彰のところへ持っていかなきゃ。今ならまだ間に合う。
   体が動けば、頭に通りに動けば、このお弁当も喉の痛みも
   何もかもなかったことに出来るから。

   




   「・・・俺のためじゃねぇの?」





   
   ぅわっ、と声にならない悲鳴をあげる。

   こんなとこ、誰も気付かないのに。
   彰に教えてもらった秘密の場所だったはずなのに。 



   (なんで今、桐谷が目の前にいるの?)



   桐谷は埃臭いこの部屋に一瞬眉を顰めた後、
   入ってきた扉をしっかりと閉じた。
   
   一歩、また一歩と近づいてくる桐谷を、はただ
   呆然と見ていることしかできない。



   どうしてここがわかったの?(知ってるはず、ないのに)

   どうしてここにきたの?(もうすぐ昼休み終わるのに)
     

   
   ききたいことが頭をめぐったけれど、言葉にはならない。
   の膝に乗っかる弁当箱をみて、桐谷は珍しく
   にやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
   初めて見た、そんな笑顔。
 
   は気付かないけれど、目元には不安。
   
    
   桐谷は笑顔はそのままで、乱暴に隣に座った。
   狭い空間に、桐谷の足は窮屈そうだった。
   
   
   

   「の、食ってみたい」
   


  
   と呼んで、堂々と毎日作ってもらえるようになるまで
   ちょっとした自分への褒美。
   これくらいいいだろ?

 
   (それに結構、楽しみにしてたんだけど)



   差し出される大きな手に、は視線を泳がせ
   迷った後、俯いた。



   「・・・どうぞ」
  


   次は屋上に来いよ、と受け取った桐谷は
   本当に嬉しそうな表情で笑った。

   仮面の桐谷の、素顔の笑顔はとても綺麗だった。