あーあ。本性がバレちゃった。




別に、もうあのときから“”は背負わないって決めたんだけど。



・・・これから、どうなるのか、・・・とても楽しみだ。














   甘いお菓子と籠の鳥














『・・・ごめん。それは言えない。いえるときになったら、教えるから』 







昨日、そういうとあの後翼は意外とあっさり帰った。


一応、不満そうな顔もしてはいたけれど。




・・・あぁ、言えばよかったのかな。

言えば、楽になれたのかもしれない。


どちらにせよ、いつかは言わなければならないことなのに・・・。






は着替えて顔を洗った後、朝食をとらずにオーブンの前に立っていた。

今日の菓子はアップルパイと、白桃ムース。


朝、いつものように玄関においてあるお菓子の材料にリンゴと桃があったからだ。

ムースはもう、冷蔵庫の中に入っていて、パイが焼き終わる頃には完成だ。






「はぁ・・・」






いつも作っている時は鼻歌しか出てこないだったが、今日出てくるのは
溜め息ばかり。


大好きなはずのお菓子を作っているのにさえ、疑問を持ってしまう。




翼はまたここに来るだろう。・・・いや、きて欲しい。

夏休みが終わるまで、ずっと、ずっと・・・。








ー!起きてる?俺だけど」






その声にハッとなる


翼の声だ。やっぱり、今日もきてくれた。







「起きてる、起きてるッ!もう少しだから、座って待っててー!」






は二組のティーセットを食器棚から取り出した。

今日は、オレンジの紅茶だ。


ティーポットにお湯を入れると、爽やかで控えめな甘い匂いが香った。

翼の声を聞いたおかげか、いつの間にかさっきの気分は晴れていた。







ジリジリジリジリ






白桃ムースを冷蔵庫から取り出し、ティーセットとともに
トレイに載せていると、焼き上がりのベルが鳴った。


オーブンから慎重にパイを出し、大きな皿の上で切り分ける。

大きく切ったリンゴが蜜色になっていて、美味しそうな香りがする。


これも、同じようにトレイに載せるとは翼の待つテラスに向かった。











綺麗な青空に輝く太陽


真っ白な机に並ぶカップにお菓子


楽しい話に暗い話、何でも語れるお茶会に


美味しいお菓子を食べながら 楽しく過ごしましょう・・・












「何、その歌」

「えっ、あぁ。昔、母さんが歌ってた歌」





そう答えたとき、の表情がかすかに歪んだのを翼は見逃さなかった。





「そんなことより、お菓子どう?」

「あぁ、うまいよ。どこの?」

「どこのでもないよ。あたしの手作り。感想ちょうだいな」





は少し誇らしげに笑った。



食べてくれる人がいるのが嬉しい。

美味しいって言ってもらえるのがもっと嬉しい。



の心は喜びでいっぱいだった。



翼は白糖のムースにスプーンを入れる。そしてパクリと一口。





「うん、やっぱうまいよ。これなら店に出しても大丈夫なんじゃない?」

「そんなに?やった!翼は辛口チェックだから、心配だったんだよね」

「別に、真実を言ってるまで。でも、こんなに上手なんて意外だな」

「何、お嬢様が料理なんてするはず無いって?」






も白桃ムースを食べ始める。

アップルパイもいいけれど、もうすぐ昼とはいえムースの方が
朝の口には口当たりが冷たくって気持ちいい。





「そうそう。この様子じゃ、趣味も特技もお菓子作りだね」

「まぁね」

「そして・・・、将来は“”を継ぐっていうのも嘘だよな」

「・・・・・・、・・・なんでこんなに鋭いのかなぁ」







ここまでズバズバ当てられてしまうと、何でがこの屋敷にいるかも
もうわかっていそうだ。


・・・・・・・・・・この屋敷に人が全くいないのも、すべて。






「翼はさ、将来何になるつもり?」

「もちろん、サッカー選手。俺かなり強いからね」

「自分で言うかなぁ、普通。でも、あんまり聞いたこと無いけど・・・」

「世の中から隔離されてるお嬢様にはこない情報だよ、さすがに」





それもそっか、と返事をする
特に気にする様子も無く、翼は紅茶を飲んだ。









「翼ー!どこにいるの、今日のノルマはまだでしょう!」







ふいに森の奥から女の人の声がした。


翼の顔が、途端に嫌そうな顔になる。






「やっべー、玲だッ」

「玲?一緒に来た人?」

「まぁね。一応はとこ兼保護者」

「はとこ、かぁ。仲良いんだね」

「いいって程でもないけどね。監督だし」





翼は、食べ途中の白桃ムースを急いで食べる。







「翼!どこにいるの?早く出てこないと練習量増やすわよ?」





優しく探しているようだったが、最後の部分の隠れた黒さがみえて、
翼もも少し恐かった。







「・・・しょうがないね」




そういうと翼は、目の前にたくさんある白桃ムースを2、3個と手に取った。





「これ、持って帰るよ。多分今日はもうこれないと思うから」

「残念。じゃあ、玲さんに感想きいといてね」

「わかった。・・・じゃあ」





翼は立ち上がると軽々とテラスから降りて、




「玲!ここだよ」




と大声で言いながら駆けていった。


そんな翼の背中をヒラヒラと手を振りながらは見つめていた。








ボーン、ボーン・・・と屋敷にある時計の音が響いた。