俺はどうして此処に来た?

 と話している最中ずっと、俺は自分に言い聞かせる。

 ぬるま湯につかってて良いような時期じゃない。

 玲に渡された書類の存在を、忘れるわけにはいかない。

 茹だるような暑さの中、気分が更に悪くなる。

  














 

   甘いお菓子と籠の鳥

















 朝食を食べて一時間後、玲がちょっと自分の部屋に行ったとき

 俺は屋敷から抜け出す。

 気付いているんだろうけど、あえて止めない。

 だから俺も遠慮なくやりたいようにさせてもらう。


 今日もいつもと同じように抜け出すと   

 青々と茂った木や雑草、頭上にはただただ青い空だけが浮かぶ

 道とはいえないような道を歩いた。


 虫が鳴く声と鳥がさえずる程度しか音が無い此処は

 とても居心地が良かった。

 朝にもかかわらずじりじりと照りつける太陽。

 都会と違って照り返しは無く、大きく育った木々たちが

 きつい光を少し遮断してくれる。

 まぁ、暑いことに変わりはないのだが。

 


 「・・・・・もういっそ、の屋敷に住むかな」
  

  
 
 頬から首にかけて張り付いた髪を払う。

 の屋敷は、まだまだ先だ。













 +











 一人とはなんて楽なんだろう。

 そう呟きながらはブランチを作っていた。

 朝を食べるには遅すぎて、昼を食べるには少し早め。

 しかしお腹は正直なので頭も正直に行動した。


 今日は暑いので具合が悪くならないよう

 しっかり食べようじゃないか。

 
 よぉーっし!と気合を入れては調理を開始した。

 とりあえずお鍋に水を入れて、コンロをつけて。



 料理はできるのかって?できますよ。

 一人しかいないのだ、焦げて炭素になった物だろうが

 明らかに味が個性的なものだろうが

 食べなければならなかった。

 それに、いくらカロリーを考えたと言っても

 お菓子ばかり食べているわけにはいかない。

 
 そう、お菓子ばっか作ってるわけにはいかないのだった。
 
 いくら面倒でも。
 
 いくらあーケーキ作りたいなぁと思っても。

 

 ぐー・・・。



 「・・・・ちくしょう」




 この体は空腹を訴えているのだ。





 はいはい早急にやればいいんでしょう。

 ゴポゴポと沸騰したお湯にあるものを入れると

 は包丁を取り出した。

 煮ているうちに、切るもんなのよ。

 ちなみに、切るものというのは 


 ミョウガ、シソ、ネギ。ショウガ。 


 あ、ちなみにショウガはすりおろします。

  
 ガラス細工の皿を出し、は垂れてきた汗を拭う。
 
 本当に、暑い。

 流石に天ぷらを揚げる気分にはならなかった。














 +




 







 
 
  
 延々と歩き続け、の屋敷が見えてきた。
 
 本当、見えてきた程度にしか近づいてない。


 いつもなら平気なこの道のりが、玲の特別メニューで

 早朝からシゴかれた体にはきつかった。

 鈍ってる、と情けなくなるが、そうではないこともわかっている。

 あのメニューがおかしいんだ。殺す気か。



  
 「・・・・・・。何で今日はこんなに暑いんだよ・・・」




 冷房なんていらない。

 あの屋敷のテラスに通る風が心地良いんだ。

 それに、スポーツ選手に冷房は良くないんだと。




 あぁ、せめて団扇くらい持ってくればよかったよ。  
    
 













 +















 茹でたものをざるに移して、水をジャージャーととかける。

 
 もうすぐご飯だ、とが微笑んだと同時に




 プルルルルル・・・




 と音が鳴った。ちなみに、電話ではない。

 一般的な電話の音はこれだと聞いたが、の屋敷では違う。


 これは、インターフォンの音だ。


 は慌てて水を止め、タオルで手を拭くと

 玄関まで駆けて行った。


 あぁ、広い屋敷は不便ね。一人だと二つのことができないわ。

 
 玄関の前の大きな階段を下って、身だしなみを整える。

 翼はテラスへ直接来るので、翼ではないことは確かだ。

 テラスにいれば入り口が見えたのに、とは息を吐いた。

 
 そして、扉を開く。




 「どちら様でしょうか?」




 もちろん表情、身のこなしはお嬢様仕様だ。


 
 






 




 +















 はぁ、と本当に息を吐きたくなった。というか吐いた。

 遠い。遠かった。

 伝ってくる汗を手で拭い、正面を見る。

 本当にここまでくると自分を褒めたくなる。

  
 の普段いるテラスは屋敷の正面から向かって右側。


 俺はちょうどテラスと玄関の間の道を通ってきた。

 玄関までの道はあるのだが、そこ光が当たる上に

 はどうせテラスにいるのだから面倒、というわけで

 この道を使っている。

 というか、翼たちが借りている屋敷から通っている道が

 この道だけなわけなのだが。

 

 テラスを見上げる。が、そこにはの姿はなかった。



 どうしたのだろう?

 辺りを見回す。屋敷の前に高価そうな外車が停まっていた。

 玄関には、黒スーツの大人2人。

 2人に保護されるようにその前には誰かがいた。

 ボディガードのような黒スーツ2人を車に追い返し、

 その人物は屋敷の中に入った。

 外車が、屋敷から離れていく。


 なんだ、どういうことだ?

 しかしここからじゃよくみえない。
  
 視力は決して悪くない。視界が悪いわけでもない。

 それが余計に苛立った。





 「・・・・まさか、母親の・・・っ?」





 いつもなら冷静に働く頭だが、暑さに茹っていたのだろうか。
 
 俺は、考えるよりも先に走り出していた。

 ちくしょう・・・今日は厄日なわけ?
 




 ったく、少しは平和でも、罰は当たらないと思うんだけど?

 




 

 





 05.8.5