思わず目を細めるような青空の中
君はいつもと変わらない様子で、
いや、少し嬉しそうだったかもしれない。
「好きだよ」
その言葉に、どれだけ僕は動揺しただろう。
何かを考える前に、返事を返す前に、
君は僕の全ての動作を遮る言葉を発した。
「・・・・・・冗談、かな」
べ、と小さく舌を出して意地悪に微笑む
君はとても綺麗で青空がよく似合った。
そう、君はいつも、こたえを出そうとはしない。
ずっと一緒にいるようで
ふとした瞬間にどこかへ行ってしまう様な。
ヒラヒラと舞う蝶を追っている感覚ばかりが、僕を支配する。
掴み取る
どういうつもりなんだろう。
僕の心は最近そう思うことばかりだ。
その考えの元凶である人物は、弓親の座っている窓から
少し離れた板の間で寝転がっている。
律儀に座布団まで敷いて、もらい物のお茶を啜っている。
「相変わらず、弓親は遠くを見てるねぇ」
「・・・寝転がりながら茶を啜んな。鼻に入っても知らねぇぞ」
「ごほっ!気管にダイレクトで来たよ・・・!」
「アホか」
小声で話されている言葉は、残念ながら全て耳に入っている。
その元凶であるの姿を軽く見て、小さく息を吐いた。
がこの間言ったことは本当なのだろうか。
頭が痛くなりそうだ。
どちらなのかわからない。
腕の中に収めると、珍しく紅くなるくせに、
するりと抜け出した後は何事もなかったかのように過ごす。
自分からキスしたくせに、ボクの意思はさらりとかわす。
「・・・だいたいお前はいつもな、」
「はいはい、すみませんね。でもあんたには言われたくないかな」
「んだと?」
「だってそれ、私の湯飲み茶碗」
「ブッ!」
勢いよく口から茶を噴出す一角に、特に気にもしないようで
は微笑っていた。
細めた瞳の先に映る一角は、僕とは違うように見えているのだろう。
幸せそうな視線が、愛しいものを映しているようで
とても、不快だった。
隊長や僕に向けられるものとは、明らかに違うそれが
全てを物語っているのだろう。
捕らえてしまったら光を失ってしまう君を、
どうやって捕らえればいいというのか。
厭になる。こういうことも、僕は美しくやりたいのだから。
「・・・・・・わかりやすくて好きだよ、一角」
「・・・・・・・・・・。・・・それは嬉しくない言葉をどうも」
「いや、褒めてるつもりなんだけど」
深く考えてしまう相手は、向いてないのかもしれない。
考えてばかりで煮詰まってしまうから。
頭を使うことは好きだけれど、悩むことは苦手だ。
悪い方向にしか動いていかない自身の思考に嫌気が差す。
一瞬だけやったの視線をよんだのか、一角は溜め息をついた。
同様にその視線の先の主も溜め息をつかんばかりだ。
「・・・お前、いい加減弓親に言えよ」
「やだ。まだ、早いよ」
「とばっちり食らうのは俺なんだよ!」
げっそりした様子から、機嫌の悪い弓親の言動が窺える。
「それも一角だけの特権、喜ぶべきだね」
「そんな無駄な特権いらねぇよ・・・」
一角の言葉はストレートで。
言うまでにウジウジしたり、悩んだり、時間は掛かるけれど
言葉自体は真っ直ぐだ。
一言一言に裏がなく、心理の読み合いなんてことをせずにすむ。
きっと一角の恋人は、包むような隠れた優しさを
愛情を一身に受けるのだろう。
安定した、幸せな恋。
羨ましいとは思う。もし・・・と考えるときが無いといえば嘘だ。
「でも、両想いより片想いの方が好きなんだよね」
「はァ?何、傍迷惑なこと言いだすんだ、お前は」
「だって、簡単に答えを出しちゃったら・・・もったいないじゃん?」
スリルが、苦しみが、喜びが、全てをもっと感じたい。
今すぐだとそれが足りない気さえする。
もうちょっと、あの余裕ぶっている美しい顔を崩させていたい。
せっかく、一角という楽しみが近くにいるのだから。
わたしのことで悩み苦しんで欲しい。
美しい、という彼の賛美よりも、私はそちらが欲しいのだ。
「弓親」
「・・・・・・・何だい」
起き上がって、同時に瞬歩を使って。
弓親の口に、自分のそれを押し付ける。
僅かだけど見開いた目が嬉しくて、は弓親の唇を
軽く舐めて唇を離した。
が微笑むと、弓親が更に動揺していた。
それが、本当に嬉しくて。
「主導権は、私だからね?」
まだまだ答えなんて出してはあげない。
そして、素直に行動させてあげるほど淑やかでも無い。
「・・・その気にはならないってこと」
「さぁ?」
は窓の外で羽ばたく鳥に手を伸ばした。
鳥が手に止まった瞬間、体が大きく傾く。
え、と声を出す間もなく、首筋にちくりとした痛み。
自分は弓親の胸に寄りかかっている体勢ということがわかった。
首筋に埋められた顔と、痛み。
綺麗な黒髪が首や頬に当たってくすぐったい。
ぺろ、なんて可愛らしくない、生暖かい感触がして、
思わず声を上げそうになる。
それに気付いたらしく、弓親は顔を離した。
至近距離で、満足そうに微笑う。
もちろん、の顔は真っ赤に染まっているのを知りながら。
「いい度胸だね」
「・・・・・っ」
負けないよ。
そう、君だけには。
君に惚れたのは、僕のほうが先なのだから。
「・・・覚悟、した方がいいよ」
形勢逆転。
今まで一歩有利だったに、追いついた。
もう、二人は対等。
先手必勝、って言うだろう?
二人の恋は、どちらかが主導権を確実するまで続く。
主導権を握ったほうが勝ち、ということ。
単純だけど、とても大変。
戦いは、始まったばかりだ。