永遠など美しくは無い。

   現世の人間に比べたら気が遠くなるほど

   時を彷徨っている僕たちにとっては。














   
     それを何と
















   多量の請求書の束が床に散らばっていた。

   いつもそれを処理する人間は、気が付いたらいなくなっていた。

   霊圧を探らなくてもわかる。




   「何してるのさ」




   屋根の上に上ると、やはりはそこに寝転がっていた。

   空を眺めていたの視線は動かされることはない。

   しかし、弓親はそれを気にすることなく隣に座った。


   空は厭になるくらい青くて。

   何も無い空に時々浮かぶ雲が、何だか居てはいけない存在のように   
   
   妙に、違和感を持っていた。


   弓親の問いには答えなかった。

 



   「私、十一番隊を出ようと思うんだ」





   音が、やんだ。

   視線をこちらに向けようともせず発せられた、唐突な言葉に
  
   弓親は危うく屋根からずり落ちそうになった。

   一角のように間抜けな顔もしていないと思う。

   ただ、何を考えることもできなかった。

   動揺は隠すことができず視線に表れる。


   

   「どういう、つもり」

   「別に厭になったわけじゃないよ。大好きだけど」

   


   入隊が決定する前に、他の隊からの誘いを蹴って

   は十一番隊に来たはずだ。

   今更出て行くのか。





   「このままだと、弓親に依存しちゃうから」




 
   上を向いたままのの表情は、強張っていた。

   眉毛は少し下がっていた。


 
   何が、依存してしまう、だ。

   依存なんてするほど近くなったのだろうか。

   依存なんてするほど、君は僕を頼ってはいないだろう?



   馬鹿にされたような気分だった。
   
   それに怒るより悔しいと思う自分が、滑稽に感じた。

   依存してほしいくらい、僕は絶えず君を欲しているのに。

   それに気付かないくらい鈍くは無いはずなのに。   




   あのときの約束は、君の中には残ってないのだろうか?   
   




   「剣八さんには、これから言いにいく」

   「・・・・・・そう」

   「たぶん、三番隊にお世話になるかもしれないな」




   泣く様子もなかった。
 
   お互い、表情は無に等しくて。


   三番隊・・・市丸隊長のところだ。

   あのとき壊れかけた君を救った人。

   そして、君が唯一恐れる人。

   あのとき、何一つ君に出来なかった自分を不甲斐ないと思う

   一角とは反対に、見るだけを決めた僕。

   できなかったんじゃない、しなかった。

      
   君は以前のような鋭い表情はしなくなった。

   獰猛な刀を治める鞘が見つかったかのように。

   心の底で、その役を欲しがっている自分を隠した。


   だから代わりに約束した。

   
   変わった君を見ていられなくて。

   次の瞬間にはいなくなってしまうような君を繋ぎとめていたくて。   




   
   「・・・じゃあ、あれは解消になるね」





   気付いたら零れていたその言葉に、自身の口から

   出たにも関わらず弓親は驚いた。

   何を言いたいのだろう、僕は。



   帰る場所はとうの昔になくなった。

   体は血で濡れていくのに、この心が潤うことは無いんだ。

   どこに行けば、何をすれば、私は満たされるのかな。

   
   ぽつりと呟いたその言葉。

   厭、厭だ、と叫び続けていた君に、僕は言ったんだ。

   

   『これからは僕を帰る場所して。

    一日一回でいいから、絶対僕にあって話しをする。

    そして、僕のために刀を錆付かせないで。

    僕は君に背中を預けるから、それに報いて』



   巨大虚の群になんか襲われたら、正直生きていられないだろう。

   僕のために、と理由をつければ

   君は生きる意味をつけられたことになるのではないか。

   理由があれば生きていられる、そのために僕ら死神は戦える。
       
   そう思って、軽い気持ちで言った。

   もしかしたら、見ているだけだった自分への罪滅ぼしだったのかもしれない。



   でもそれは、君にとって有功だったらしく。

   君は毎日たまに虚ろな目をして話した。

   ずっとくっついていられるのは鬱陶しいが、君はそれはしなかった。

   少しずつ、虚ろな目をしなくなって。

   代わりに僕以外にも大切な人を見つけた。

   どんどん人に戻っていった。   


   今ではもう、そんな過去を感じさせないくらい。





   「何言ってるの、弓親は」



   

   雲が、少しずつ増えてきた。
 
   それでも空の青さは変わらなかった。




   「そういうことだろう?もう君の帰る場所は僕じゃない」

   「・・・・・・、」

   「君は自分で場所を作れるようになった。もう僕はいらないんだろう?」

   「ゆみ・・・違・・・・ッ」    
 
   


   いつか誰かに言った。
   
   結ぶことより、解くことの方がずっと容易い。

   手放すのはあっという間なのに。

   崩れていく音なら、いくらでも聞いてきたというのに。





   「幸せになりなよ、なんて言ってあげはしないけど」




   
   空が青いのが、妙に現実味を薄くして。

   弓親は軽やかに屋根の上から降りた。

   地面に足が着いているにもかかわらず、浮遊感が続いていた。



   ばいばい、愛しい人。



   ふっと自嘲に近い笑みがこぼれた。

   もうどうにでもなってほしい。

   今までの自分は何だったのだろう。君との関係は?

   一番の理解者ってところだろうか。
   

   愛してる、だって、

   好き、だって

   
   一言も聞いてないし、言ってもいない。



   ざっと音を立てて、建物の中に戻ろうと一歩踏み出す。

   君とはもう会わないようにしよう。

   二度と、目にすら入らないようにしよう。

   もう君の前で笑える自信が無い。




   

   「・・・ふざけんな!」






   空気が揺れるような大声だった。

   同時に草履も飛んできて、見事に弓親の頭に当たった。

   強烈な、直球だった。


   痛みと衝撃に頭を抑え、振り返る。




   「勝手に解釈して、勝手に私の前から消えようとすんなこの莫迦!」
  
   「・・・・な、」

   「私がいつアンタがいらなくなったって言った?」




   叫ぶような声だった。

   いつもの余裕を微塵も感じさせない、切羽詰った声。

   



   「もうちょっと必死で止めろ、裏切り者!」



 

   縋りつくような声が、弱弱しくて。

   涙が出なくなった君の心が泣いているのがわかって。






   「・・・そこまで言うなら、一生懸命止めてあげるよ」




   

   心底面倒だけど、と付け足す嫌味も忘れない。 


   僕ばかりが依存しているかと思えば、

   もうとっくに君も依存しているじゃないか。    

   一人で立つには脆い、君の両腕は怪我だらけなんだ。



   
   君と美しく生きることなど不可能なことが、わかった。

   


   もがき、手探りで生きていくしかないんだ。

   余裕ぶっている虚勢なんて互いが壊してしまう二人だから。



   せめて主導権は僕に握らせてよ。 
 


   あのときの罪滅ぼしは、たぶん一生続く。

   厭になるほどの時の中、僕らは互いに依存していく。

   それがどれほど続くかは定かではないが、僕はそれを永遠と呼ぼうではないか。