季節はもう二月。
バレンタイン間近の今日、久しぶりに日本に来た。
「ユン!」
「!?」
飛行機を降りて、荷物を受け取った。
また一人かぁ・・・なんて思っていたら、一番逢いたい人の声が響いた。
そう、愛しい愛しい彼女。
彼女は一直線にユンの胸に飛び込んできた。
もちろん、後から小走りで保護者の英士もきていた。
「久しぶり!から迎えなんて珍しい」
「なんとなく、ね。逢いたかったよ久しぶり!」
ユンは感激とまではいかないが喜びをかみしめて、を抱きしめる。
久しぶりの愛しいぬくもり。あぁ、これからはすぐに触れれるんだ・・・。
「・・・・・・感動中悪いんだけど、ここ空港だから」
「ブーブー。ヨンサのケチー」
「家でゆっくりやりなよ」
それもそうか、とユンが腕を緩めたとき。
「「!?」」
ズズズ・・・とは力なくユンの体を滑っていった。
・・・・・・・・珍しく迎えに来た恋人は、空港でぶっ倒れました。
ぬくもり
頭がボーッとして、全然思考が働かない。
ノドも少し痛い。鼻水は大丈夫そうだけど。
そしてなにより・・・・・体が重い。
は額に載せられた冷たいもので、目が覚めた。
あまりよく開かない目で見えたのは、心配そうな表情のユンと英士。
あれ、ユンきてたんだっけ・・・?
あ、そうだ迎えに行ったんだ。たしか。
でもここは私の部屋、だよね・・・。
「大丈夫?」
「ん。ユン、英士・・・」
掠れた変な声が出た。
それでも二人は少し安心した表情になった。
「全く心配かけないでよね・・・」
「ホントだよ!珍しく迎えにきたと思ったらぶっ倒れちゃうし」
「・・・・・・ごめん」
ユンにあったとこまでしか覚えていないので、あの後ぶっ倒れたのだろう。
それを二人が運んでくれた、と・・・。うーわー、情けな・・・・。
「じゃあ薬買ってくるから」
「いってらっしゃーい」
「え、お母さんは?」
「・・・・・・うちの親と一緒にカラオケ」
「迷惑かけます・・・」
そういうと、英士は自分のコートを掴んで部屋を出て行った。
それを手を振って見送ったユンは、のほうに向き直った。
「久しぶりだから楽しみにしてたのに・・・・ごめん」
「なーにいってんの!僕は結構長い間いるつもりだから」
「じゃあ早く治さないとね・・・」
「そうそう、は元気が一番!わかったら早く寝ること!」
「・・・・・・・・・・はーい」
しかし、せっかくユンがきているというのに寝るなんて勿体無い。
第一・・・寝顔は凄くマヌケだろうから、みられたくない。
それに気付いたのか、ユンは笑った。
「ほら、早く寝る」
「・・・・・し」
「ん?」
「・・・・・・寝顔、見られたくないし」
「そんなこと気にしてる場合じゃないの。38℃もあるんだよ?」
ユンは布団をの顔の半分まで引っ張った。
「ほら、これで平気」
「そ、だね」
「だから寝て、早く治してよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・わかった」
根負け状態では渋々、目を閉じた。
英士が帰ってきた頃には、はとっくに夢の中。
「あれ、寝ちゃったの」
「お帰りヨンサ」
「薬飲めないね。・・・ユン、が起きたら下のおかゆ温めて食べさして」
「はーい」
「あぁ。あと、起きたら言っといて。『無茶しすぎ』って」
「無茶?」
「・・・・別に」
じゃあ、薬ここ置いとくから、と英士はの枕元に薬を置くと
すぐに部屋を出て行ってしまった。
再び戻る部屋の静けさ。
ユンはぐっすり寝てるをまた眺めた。
意外に長い睫毛。
柔らかそうな頬は熱で赤く染まっている。
いつもは冷たい言葉が出てくる小さな唇は、ふっくらとして少し半開きだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・かわいいすぎ」
今すぐ頂きたいくらいだ。
でも、弱ってる時より、元気な時の方が楽しいし。
・・・・・何より、あの笑顔がみたい。
ユンの心も知らず、はぐっすり寝ている。
ふ、と目を落とすと、布団から出た左手が何かを掴みたいかのように
軽く、握られていた。
辛いのだろうか、眉間に少し皺がよっていた。
の亜麻色の髪を優しく梳くと、は身動ぎする。
「・・・・んっ・・・ゴホゴホッ」
不安そうな雰囲気の漂う寝顔。いつもからは想像つかないくらいだ。
風邪のときってなんだか心細くなるのって、ホントなんだ。
ユンは自分の手をの左手に握らせる。
すると安心したように、眉間の皺も消えた。
そしてそのまま、は穏やかな表情で眠り続けた。
誰の手、だろ・・・?
凄く、暖かい。大きな手だけど、優しくて。
全てを包み込むような、そんな感じ。
自分の手は熱くて、汗ばんでいるのにも係わらず、不思議と不快感はなかった。
左手のぬくもりをかみ締めながら、薄い意識を手放した。
「・・・・・・・・・まったく」
はぁ・・・と深い溜め息と共に、英士は部屋に入ってきた。
英士の目の前にあるのは、穏やかな表情で幸せそうに寝る二人の姿。
・・・・・・二人きりにしてやろうと帰ったわけだが、やっぱり心配で
きてみたらこのザマだ。
全く何時間経ったと思っているんだ。ユンの奴。
この様子じゃ、きっと薬もお粥も口にしていないだろう。
「でもまぁ・・・・」
幸せそうに眠る二人を起こすのも忍びない。
そして何より・・・・
少しでも動かしたら取れてしまいそうな、繋がった二人の手。
あえなかった分を補っているように見えたその手を、はずすことなど英士にはできなかった。