恋愛とか、少女漫画とか・・・・・


     ぶっちゃけ、自分にはあまり縁のないものだと思う。

       
     遠い世界のオンナノコの話、って感じ?

     
     私がそんな乙女思考になるきっかけって、どんなのだろうね?

  
    

  
     





 







        ホップ                 



  
     


  













     昼休み。

     校庭で、サッカーボールが綺麗な弧を描いた。

     誰もいないはずのスペースに落ちたそのボールを、一人が受け取る。

     すぐに茶髪の人がディフェンスについた。


     にっ、と笑うと、ボールを持った人はヒールリフティングで茶髪の人を抜いた。     

     そして、そのまま強烈なミドルシュートを放った。






    
     「げっ・・・・!」
  

 





     シュートはゴールキーパーの手をかすることもなく、ゴールネットを揺らした。


     味方の人たちは、「、ナイッシュー!」とか喜んで、ハイタッチをし、

     敵の人たちは呆然として、がっくりうなだれていた。

     見ていた周囲の人たちからは、おおおおおっと歓声が上がった。







     「よっしゃあっ!これはビューティフルゴールでしょ」

     「くっそ〜・・・・またに抜かれた!ちくしょう、もう一回だ!」
 
     「はいはいかかってらっしゃい!何度やっても結果は同じだって、若菜!」
 

         





     はボールを軽々と踊るようにリフティングしながら、笑った。

     相変わらず上手ぇな、と他の人も笑っていると、上から怒鳴り声が聞こえた。     
      


     





     「こらーっ、お前らァァ!今日の校庭使用は一年だろうがァ!」

     
  



     


     なんだぁ?と上を見ると、職員室の窓から、学年主任が顔を出していた。

     はギャーギャー怒っている先生をみて、舌打ちをした。     

     

     
  

     「・・・・・しょうがない、勝負はお預けだね」

     「ちくしょー、勝ち逃げかよっ!」
   
     「若菜、弱くなった?」

     「てめぇ・・・・っ、明日は勝つ!首あらって待ってろよ、!」

     「あはは、楽しみにしとくよ。・・・・でも、今はとりあえず」
 
     「「ずらかれっ!」」



 

   
     息ピッタリのタイミングで、二人がそういうと、そこにいた全員が

     ダッシュで校舎へ走り出した。
   



     
     
     
     「あ、そこの一年生!このボール使っていいよっ!」







     器用にリフティングしながらダッシュしていたは、近くで様子を見ていた一年の男の子に
  
     ポンッとボールをパスすると、笑顔でそのまま校舎内に駆け込んだ。     

   






















 
     「やぁーっぱ、運動後に飲む一杯はおいしいよね!」

     「オヤジか、あんたは」



   
     
     がパックのお茶をずずーっと飲むと、前の席にいた友達は呆れた顔をした。


     すると、教室に遅れて結人達が戻ってきた。

     男女関係なく、その周りに人が集まった。






     「またやってたでしょー?観てたよ!」

     「今日もの勝ちかぁ?」    
  
     「うっせぇ!」

     「結人意外とあっさり抜かれてくよねー。実はユースっていうの嘘?」

     





     あはははは、と盛り上がる人垣。

     昼休みのこの対決はクラスの全員が観ていたようだ。たまにやるこれは、みんなの楽しみらしい。     

  


 


     「・・・・・にしても、結人は人気あるねぇ」                   

     「そうだねー・・・・。今度下駄箱に剃刀レター入ってこないかな?」

     「女だと思われてない、と思ってるよみんな」

     「うっわー、失礼!」






     結人たちに集まっている人垣を横目で見ながら、は笑った。

     その人垣の声はだんだん大きくなっていき、結人のうるせーよ!という笑い混じりの怒り声が響いた。






     「だってめっちゃかっこいいし。一年生惚れてたって、特にボール渡した子」
 
     「マジですかっ。これからは下駄箱気にしよ」

     




     あほか、と友達は笑うと、ついでにビシッと軽いチョップまでくらわしてくれた。

     



     「って、そのタオル誰の?の鞄にタオル入ってるなんて珍しい」

     「あぁ、これは英士君の。この間みんなで遊んだとき持ってなくってさ、貸してくれた」
       
     「タオルも持ってないって、女としてどうよ」

     「うっさいわ!」
       
     
  

   
        
     今度は仕返しとばかりに、は友達を思いっきりくすぐった。

     ギブギブ・・・・!と友達は笑うと、鞄を指差した。



  

     「で、返さなくていいの?」
    
     「返そうと思ってずっと入れっぱなし」

     


  

     きちんと洗ったので、早速返そうと思ったのだけれど、

     のケータイは今没収中で。しかも、親にってどうよ。数学悪かったのは認めるけどさぁ!

     
     というわけで、いまだに返せてない。







     「早く返しなよ」

     「わかってるって。・・・・・・・・・若菜!」

  





     よく考えれば、近くに彼の親友がいたではないか。

     しかも、と結人はかなり仲がいい。

     男女の友情なんてない、という説を見事に打ち破るほどだ。



     はお茶のパック片手に、結人のほうに向かって声をかける。

     かなりうるさい教室内では、の声は結人に伝わりにくそうだった。     
  









     「なんだよ、
   






     の声に反応して、結人は人垣から抜け出してきた。

     うるさい教室内だが、意外にの声は届いたようだ。






     「今日さー、英士君って暇?」

     「あー、そういえば『さんに貸したタオル、きっと困ってるだろうから貰ってきて』だってさ」
  
     「マジっ?じゃあ投げるよー」

     「お前人から借りたもん投げんなよっ!放課後でいいだろ放課後で」

     「それもそっか」






  
     が頷くと同時に、昼休み終了の本鈴がなった。           
      
     イヤミな数学教師が、即行やって着てクラス中の非難を浴びていた。














   
















     


     誰かが、自分の体をゆすっている。はその感覚で目が覚めた。



 



     「おい、いい加減起きろよ」

     「・・・・・・・・・・・・んえ?」
  
           
             





     どうやら、寝ていたらしい。


     まだ少し眠たい目を開けて、顔を上げる。

     ・・・・・・と、いきなり結人のアップ。は驚いて起き上がった。







     「あれ、みんなは?」

     「・・・・・・・・・・・はぁ」


   



     
     教室を見回しても、誰もいない。
 
     きょとん、といった感じで言ったに、結人は溜め息とともに時計を指差した。




     5時、40分・・・・・・・・。




         
    
    
     「5時ぃぃぃぃっ!?」

     「お前寝すぎだっつーの」

     「何で起こしてくれないのっ!」

     「起きなかったんだよ!」


 
     



     今日は六限なので、どんなにHRが長引いたとしても・・・・・寝すぎだ。

     五限目の数学の教科書を開いてあるところを見ると、教科書を見て即行寝た、と。

 
     は一気に青ざめて、結人に向かってごめん、と手を顔の前でくっつけた。



     
 


     「ほんっと、ごめん!若菜だって用事あっただろうにっ」

     「・・・・・・・・・まぁいいけど」

     「あ、これ英士君のタオル。返すの遅くなってごめんね、って言っといて」

     


     


     は自分の鞄を漁って、タオルを差し出した。
  
     結人はそれを受け取って、自分の鞄にしまったが、何故かそのままの隣の席に座った。


 


      
     「なに?」

     「お詫びに奢るのが普通だろ?」      

     「ちくしょー、今月ピンチなのにっ。若菜の鬼ー」

     「どんだけ待ったと思ってんだよ」
  
     「・・・・・・すみませんでした」

     「さぁーって、何奢ってもらおうかぁ〜」        
   
 
 
   

     楽しそうにしている結人に、思わずは財布の中身を確認した。

     うん、奢るくらいならギリギリありそうだ。肉まんあたりにしておこう。


     ・・・・・・・と、は何か視線を感じる。




   
     「あんまり高いのは奢れないからっ。コンビニで勘弁してよね、若菜」
 
     「・・・・・・・そういえばさぁ」
 
     「なに?」

     「いや、って俺のこと苗字で呼ぶよなぁ、って思って」

     「は?」





     今更何を言っているのだろう、この人は。

     茶化すような感じではなく言われたその言葉に、は思いっきり間抜けな顔をしてしまった。




 
     「いや、だって。俺のこと下の名前で呼ばないのくらいだし?」
              
     「若菜だって、私のこと苗字で呼ぶじゃん」

     「・・・・・・・・なぁ、なんで苗字で呼ぶわけ?」

     「若菜も苗字で呼んでるから?」
  
     「疑問形で返すなよ!」




     
     仲の良いたちのクラスで、結人とは男女問わず皆から下の名前で呼ばれていた。

     それこそ、苗字で呼ぶ方が珍しいくらい。 
  
     今更なことなので、追求してくる意味がにはわからなかった。     



 
 
     「若菜はさ、苗字で呼ばれるのが嫌なの?」

     「そういうわけじゃ、ないけど」

     「私は若菜、って呼ぶ方が好きかな」

     



  
     なんとなく言ったの言葉に、結人はガタ、とイスを鳴らした。
 
     少しうつむいた状態で、そのまま黙った結人には首をかしげた。




   
     「・・・・・若菜?」
 
     「は他の仲いい男子のこと苗字で呼ばねぇじゃん。英士のこともさ。なんで?」

     「特に意味はないよ。ただ、若菜のこと皆結人って呼んでるから、若菜の方がいいかな、って」
          
     「・・・・・・・・・・」

     「私だ、ってわかるでしょ?」





     は首を傾げたまま、なんとなく気恥ずかしくて結人から視線をはずした。
 
     すると結人は、少し俯いていた顔を上げて、笑った。









     「皆結人って呼ぶ中で、若菜って呼ばれんの・・・・・なんか特別って感じでさ。
      は他の奴は苗字じゃないし。・・・・・・・・なんとなく、嬉しくて」
  
    





     笑顔でそういった結人の言葉は、最後の一言が少し小さくて聞き取りにくかったけど。

     には、ちゃんと届いてて。

     









     「・・・・できればさ、結人って呼んで欲しいけど。でも、そういうことだから、今のままでも別に」

     


 





     
     どういう、意味だろう?

     の頭は突然のことについていけるほど、良くはなかった。

     混乱して、何もいえない。

 
     そんなを見て、結人は少しやっぱりな、という感じの表情をした。



  




  
     「で、何が言いたいかって言うと・・・・・、俺もそういう特別をこめて、仲良いお前を苗字で呼んでんの!」

     







 
     わかった?と結人は茶化すような、でも真剣な目でを見ていた。

     
 

   


     「それだけ。じゃな!」

     「えっ、ちょっと・・・・・っ、若菜っ!」







  
     

     結人は言うだけ言っといて、の反応もあまり見ずに、鞄を持って走って行ってしまった。

     暗くなってきた教室にただ一人残されたは、呆然と座ったまま。























     「・・・・・・・・・・え?」







     ようやく、結人の言いたいことを理解した
  
     でもやっぱりわからなくなって。疑問符が頭の中を支配していく。

 
     ドクドクと強く速くなっている自分の鼓動も信じられない。は熱くなった頬を手のひらで押さえた。

         
         


     自分でも気付いてなかったけれど、実はあった、恋心。 
     


     自覚すると、とても恥ずかしいけれど。

     一体いつからだろう、そんな目で見ていたのは。

     わからないけど、・・・・・・きっと心の奥に前からあったのだろう。
     
     ・・・・・・・・・とりあえずわかることは、告白は絶対しないということくらい?

     

     
   
     恋愛初心者、そんなが少し乙女思考になったきっかけは、結人の一言。